「メリークリスマス〜〜〜」

派手なクラッカー音とともに紙吹雪が宙を舞った。
「年に一度のお祭り何だから、みんなじゃんじゃん無礼講で騒ぎましょうねぇ〜」
「会長〜、年に一度って、会長はいつもお祭り騒ぎじゃないですか」
「そうそう。それに無礼講って、それじゃあクリスマスっていうより、忘年会ですよ?」
クラッカーを片手に陽気なミレイの発言に、学生たちから次々とヤジが飛ぶ。
体育館を貸し切った、生徒会主催のクリスマスパーティーには日中からの開始ということもあり、全校生徒のほとんどが参加しかなりの盛り上がりである。
「うるさいわね〜、楽しければ細かい事なんて気にしなぁいのっ」
その一言にまた皆から、どっと笑い声が上がる。
グラスの中身はウーロン茶やノンアルコールの飲み物だが、皆のはしゃぎようは酔っぱらいのようだ。

「ねぇ、スザクくん」

誰もが浮かれ楽しんでいる会場の片隅。それから逃れるように壁にもたれ、一人、ぼんやりパーティーの様子を眺めていたスザクはふいに名を呼ばれ、そちらを振り向いた。
「シャーリィー」
「ルルーシュ見なかった?」
やって来た少女は、スザクが彼女に気づくや否やそう尋ねてきた。
「ルルーシュ?」
スザクが怪訝そうに問い返せば、シャーリィーは辺りを見回しながら頷いた。
「さっきから探してるんだけど、この人の多さでしょう?全然見つからなくて…」
確かに、この中で特定の人物を探すのは困難だろう。
てっきり他の役員と一緒にいるものだとばかり思っていたスザクは、首を横に振る。
「…ごめん、僕もちょっと分かんないや。そうだ、携帯とは?」
「ダメなの。さっきから何度か鳴らしてはいるんだけど、全然でない」
「あー…、そっか。そうだね」
言われ、スザクは気づく。
ただでさえクリスマスパーティーということで、室内には結構なボリュームでクリスマスソングが流れており、その上更にはこの盛り上がりようだ。
こうして近くにいても、大声で話さなければ聞き逃してしまいそうになるのに、携帯電話の着信に本人が気が付かない可能性は高い。
「それで、ルルーシュに何の用なの?」
「ゲームにルルが必要なのよ」
「ゲーム?」
スザクも一応生徒会役員だが、そんな話しは聞いてない、初耳だ。
「?!う、うん。そうなの」
途端、シャーリィーは上擦った声を上げた。
どうやら彼女にとってそれは失言だったらしい。
「ちょ、ちょっとした会長のサプライズ企画なんだけどね〜」
慌て彼女は言い繕うが、その挙動不審な態度はさあ怪しんでくださいといってるも同然だ。
だが、会長が首謀者というのなら今までの経験上、深く追求しない方がいいだろう。
「…もし良ければ僕も探すの手伝おうか?」
「え、でも」
「気にしなくていいよ。僕だって生徒会役員だし」
それにどうせこの賑やかな人の群れの中で、自身の身の置き場困っていた所だ。逆に何かしらやっていた方が気が紛れて助かる。
「…いいの?」
「うん」
スザクはシャーリィーに笑って頷いた。









その後、もしかしたら何処か別の場所にいるかもしれないからと、パーティー会場内の探索はシャーリィーにまかせ、スザクは会場の外に出た。
クラブハウスに始まり、生徒会室、教室、屋上と。ルルーシュが行きそうな場所を探し回ったが、何処にも見当たらない。
一体ルルーシュは何処にいるんだろうか?
窓越しに灰色の空を見上げ、途方にくれたスザクは深々と息を吐き出した。
その吐き出した息がやけに大きく響き、スザクは何とはなしに辺りを見回した。

誰もいない、静寂さの中に、一人きり…。

皆、パーティーに参加しているのだから当たり前の事なのだが。
スザクの口許に淡い笑みが浮かんだ。
幼い頃、クリスマスはいつもこんな感じだった。
物心がついた事から宗教や親の仕事の事情で、スザクはクリスマスという行事にあまり参加したことはなかった。
周囲の大人たちの情けで食事に一切れのケーキと、枕元に長靴に入ったお菓子等を貰えこそはしたが、本当にただそれだけ。誰かと一緒に祝うという事をしたことが無かった。
だから、同年代の子供たちが楽しそうに語るクリスマスをいつも複雑な心境で聞いていたのだ。表面上は強がって割り切ったふりをしていたが、心底ではずっと寂しかった。

なのに―――、

スザクは、今だお祭り騒ぎの真っ最中であろうパーティーを思い出す。
なのに、いざ目の前にあるとどうしていいのか、分からない。
憧れていたはずなのに、強い疎外感が自分を束縛し、輪の中に入ることが出来ない。
自分はあそこでは異物でしかない。そんな気持ちが拭えないのだ。
と、そこまで考え、スザクはゆるりとかぶり振った。
今はルルーシュを探さす事の方が優先だ。
そう気を取り直し、窓から身を離しかけたその視界にある建物が映った。
普段全く立ち寄らないのと、校舎外あるということで今まで存在自体忘れてしまっていた場所だ。
まあ、今日という日を考えばらしい場所なのだが。
スザクは直ぐ様、生徒用玄関へ足を向けた。









神学校でもないここに何故、学校の敷地内に教会があるのか。実をいうとその存在を知ってから、ずっと疑問に思っていた。
誰か、学園関係者の中に熱心な信者がいるのか、少なくともスザクはここが公式に使用されているところを転校以来見たことがなかった。
だからといってわざわざ聞く程ではないし、もし、聞いたとしても『さあ?会長の趣味なんじゃない?』と、言われるのがオチだと思う。
それはそれで自分が複雑だ。
屋根の天辺にに取り付けられた十字架を目印にやって来たスザクは一度息を整えてから、正面入り口である扉のドアノブに手をかけた。
「―――あれ?」
しかし、ドアノブは回らなかった。
なんと鍵がかかっていたのだ。
使用していない建物に鍵がかかっていることは至極当然の事だ。
少し考えればすぐに分かる事をスザクは急ぐあまり、すっかり失念してしまっていたのだ。
「ルルーシュ、ルルーシュ」
それでも一応念のため、数度扉を叩いてみる。
「ルルーシュ、僕だスザクだ。いるならここを開けて?」
…待つこと数秒。
内側からの返事どころか物音ひとつしない。
仕方なく諦めて扉から背を向けたその時、ガチャリと、音が。
「ルルーシュ?」
「……スザク、お前一人か?」
軋んだ音を立て、僅かな隙間から聞こえたのは何故か警戒心を含んだ小さな声音。
「?そうだけど…」
訝しげに答えれば、しばしの沈黙の後いきなり扉が開いたと思きやいなや、突然腕を捕まれ強引に教会の中へ引っ張り込まれた。
「ちょ、な、うわっ!?」
勢いづいた体は慣性の法則のまま建物内に投げ込まれ、途中、スザクは床につまづき転びそうになった。
「一体、なに――…」
それを何とかこらえ慌てて顔を上げた瞬間、目に飛び込んできた輝きにスザクの言葉は途切れた。
祭壇の向こう、光さすステンドグラスの色とりどりの神々しい輝きは何かを強く訴えているかのようで、見るもの全てを圧倒してしまいそうである。
「すまない。だが、こちらにも事情があってな」
しばしそれに見とれていると、再度扉に鍵をかけたルルーシュがやって来た。
謝罪を口にしながらも、その態度に全く悪びれた様子はない。
「しかし、よくここが分かったな」
「あー、うん。散々探し回ったからね」
感心するルルーシュに、スザクは特に憤慨する事もなく、ただ苦笑いを浮かべた。
「探し回った?」
「うん。シャーリィーがパーティーのゲームに君が必要だって。何度も携帯電話を鳴らしていたはずなんだけど…?」
そこでスザクはふと気付いた。
パーティー内の人混みにいるならまだしも、ここなら確実に着信音は聞こえていたはずだ。
なのに、出ないということは―――。
「ああ、知ってる」
案の定ルルーシュはしれっとそう答え、携帯電話を自身のポケットから取り出した。
「マナーモードにしてあるんだ」
そして、もう一度同じ場所へしまい込んだ。
一見矛盾した言動だが、それが意としていることはスザクには一つしか考えられない。
「……ゲームって何なの?」
「さあ?具体的な事は知らないが、人を景品にしようとしていた事は確かだな」
恐る恐る尋ねたスザクに、ルルーシュは肩をすくめ、ある一点を視線で指し示した。
「それも景品だ」
ナース、チャイナ、ゴスロリ……。
「うわぁ……」
整然とベンチに投げ置かれた衣服に、スザクの口から何とも言えない声がもれた。
一体、会長はこれとルルーシュで何をしようとしていたんがろうか?
想像したいような、したくないような。スザクの背中に冷たい汗が流れ落ちる。
「当人には秘密で事を進めていたらしんだがな。バレバレだ。…全く、何にでも人を強制的に巻き込もうとするんだから、あの会長様は」
困ったもんだと呟いて、ルルーシュは座れそうな箇所に腰を下ろした。
「だからスザク、すまないが俺がここにいる事はパーティーが終わるまで会長たちに内緒にしてもらえないか?」
ごめんと、スザクは心の中でシャーリィーに手を合わせた。
計算だと思ったが、上目使いでこちらを見上げるルルーシュに、スザクが逆らえるわけはなかった。
「分かった。その代わり、と言ったらなんだけど」
そこで一旦言葉を区切り、スザクはルルーシュの傍らに座る。
「僕もここにいていい?」
「それは構わないが、…お前、パーティーに参加しなくていいのか?」
「うん、いいんだ」
ルルーシュの問いにスザクは笑って答えた。
あの場所に戻ったとしても、また同じ思いをするだけだ。それなら自分はルルーシュの傍らにいたい。
スザクは戸惑うルルーシュの手に自身の手を重ね、そっと包み込んだ。
「君の共犯者としてここにいさせて?」
ルルーシュからの返事はなかった。
だが、スザクには重ねた手の温かさだけで充分だった。




それから二人、他愛ない会話を少しした。
おもに大したことのない雑談のだったが、パーティーの中で感じた疎外感も異物感も感じなかった。
逆に彼の傍で心の底でいつも以上に温かく、また、満ちる何かをスザクは感じていた。
多分、これが自分の本当の望みだったのだろう。
スザクはルルーシュの隣で、分かった気がした。
自分が本当に憧れ望んでいモノの。それはパーティーで皆と騒いだりする事ではなく、大切な誰かと一緒に過ごす事だったのだ。
「スザク、顔かにやけてるぞ」
「そうかな?」
「そうだ。何かよからぬ事でも考えてるんじゃないだろうな」
どうだろう?とスザクはゆるむ口許をそのままに、拗ねたように尖らせるルルーシュのそれに触れた。
少しでもこの喜びが想いが伝わればいい。そう、思って。
「…クリスマスってさ、神様の誕生日なんだよね」
「何を今さら…。正確には救世主のだがな」
それはまるで秘め事のように、密やかな声で。

長い口づけの後、お互いの唇を吐息でくすぐるように二人は笑い混じりに言葉を重ねていく。
「本当なら、こういう場所で祈ったり―――、うわっ!?」
大した感慨もなくそう言いかけたスザクの体が急に傾いだ。
するりと首筋に伸びてきた腕の仕業だったが、その腕になされるがままスザクはルルーシュの体に覆い被さるように倒れ込む。
「スザク、お前は神がこの世界にいると思うか?」
眼下には予想よりも真剣な双眸。
その答えは愚問だ。スザクは思った。
ルルーシュもそれを知っていて、敢えてスザクに問うているのだ。
君が僕に望むなら、いくらでも。
スザクは身を屈め、ルルーシュの耳元に唇を寄せ何事かを囁いた。
睦言のように囁かれた言葉に、首にまわされていた腕に一層の力がこもり、スザクは微かな笑みを口の端にその意思に従いゆっくりと身を沈めていった……。









日本のクリスマスは子供と恋人のためにあると思う。
そして、また最初考えてた着地点からずれた気が…(--;)
とりあえずそれはそれとして、二人が逃亡したその後のパーティー会場では何が起こっていたか?
気になる方は下におまけがありますんで、よかったらどうぞm(__)m

おまけ(笑)


小説(シリアス編)

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