3月3日は桃の節句。つまり、女の子のお祭り。
5月5日は、端午の節句。つまり、男の子のお祭り。
して、その間の4月4日はといえば−


「おかまさんの日!」
「だから、何で全校男子生徒が女装しなきゃいけないんですか!?」
ビシッと指を立て、断言するミレイに、ルルーシュは反射的に非難じみた声を上げた。



え〜と、ここはいつもの生徒会室でございます。
そして、いつも通り会長の思い付きにより、全校を巻き込んでの突発性イベントが開催されることになったのでございますが…。



「何をそんなに怒ってるのよ?ルルーシュ」
「惚けないで下さいっ。今朝来た途端に、女物の服を着ろと強制されて、怒らない方がおかしいでしょう!?」
不思議そうに首を傾げるミレイに、怒りを露にしルルーシュは詰め寄った。
現在、室内には二人しかおらず、誰もルルーシュを止めるものはいない。
が、そんなルルーシュの勢いに、特に動じる風もなく、ミレイは何も言わず彼の爪先から頭のてっぺんまで、ゆっくりと視線を滑らせた。

「…でも、着てるし」
「うっ、」
ボソッと呟かれた言葉に、ルルーシュは努めて忘れていた今の自分の姿を思いだし、直ぐ様羞恥に顔を赤く染め上げた。
紺色のブレザーに緑色ストライプのリボンタイ。それと、膝丈の赤いチェックのプリーツスカートといった、シンプルなお嬢様風女子高生スタイルは、お世辞抜きで彼に良く似合っていた。
「う〜ん、やっぱり似合うわねぇ。思った通り」
満足げにミレイは何度も頷く。
「そうだ!ルル、化粧もしてみない?きっともっと美人になるわよっ」
「結構ですっ」
提案をルルーシュは即座に、叩き捨てた。
女装していると思うだけでも恥ずかしさで、気が遠退きそうなのに、化粧何て冗談じゃない。
不満の声を上げるミレイに、ルルーシュは憤慨する。
「大体この服だって、会長がオレが着なきゃ、ナナリーに萌え系コスプレさせるっていうから、仕方なく着たんじゃないですかっ」
「あ、ひどぉい。それじゃあたしが脅したみたいじゃない」
「『みたい』じゃなくて、そうなんです!」
どうしてこう毎回毎回、自分を思い付きに強制的に巻き込むのか。
本当にこの会長様は。ルルーシュは呆れ疲れはててしまう。
「…とにかく、今すぐこんな企画止めて下さい」
「え〜。あ、じゃあ来月は女子が男装するってことで」
「何のフォローにもなってません!」
窺い立てる笑顔にルルーシュは即座に怒声をあげた。

「男子の女装と女子の男装じゃ、心の傷が違うんですっ!!」

最もな、青少年の主張である。
全く、自分はともかく、これを期にめざめた男子がいたらどうするんだ…って、そういうことじゃなくて。
ルルーシュは自分の思考にかぶり振り、口を開いた。
「会長…。そのお祭り好きな性格を本当にどうにかして下さい。それじゃあ、ついてくる人間もついてきませんよ」
多少きつめの物言いをし、深々と嘆息をもらす。
これくらい言わなければ、目の前の彼女には解らないだろう。
少しは巻き込まれる側の人間の事も考えてほしい。
そう思っての言動だったが、次に見せた彼女の行動にルルーシュは固まった。
「ごめんなさい…。あなたがそこまで嫌だなんて、あたし思わなくて」
潤む目元を指の背で拭いながら、謝罪の言葉をのべるミレイの姿に、さすがにルルーシュも慌ててしまう。
「本当にダメね。ルルーシュの言う通りだわ」
「か、会長。そこまで落ち込まなくても」
予想以上に落ち込む彼女を、どうあやせばいいのか。
言葉が見つからず、困惑するルルーシュを尻目に、ミレイは明後日の方向を向き、祈るように両手を組み合わせる。
「でもね、あたしもあたしなりに、みんなの為を思って必死に考えているのよ?それだけは信じてほしいのっ」
「はい、それはもちろん」
「本当に、信じてくれる?」
「はい」
上目使いでこちらを見る視線に、ルルーシュは必死に頷いた。
「じゃあ、あたしのお願いひとつだけ、聞いてくれる?」

「お願い?」

その単語に、そこはかとなく嫌な予感した。ルルーシュは条件反射的に、疑心に目を細める。
泣かれたと思い焦ったが、良く考えれば先程からどうも言動が、芝居がかっているような…。
日常で培われた、自衛本能が後一歩と言うところで、踏みとどまった。

「…会長、目薬足元に落ちてますよ?」
「え、ち、違うわよ!?あたしが使ったのはメンソー…」
ルルーシュのカマかけに引っ掛かり、口を滑らせたミレイの声が、しりすぼみになっていく。
やっぱり。
ルルーシュはがっくりと項垂れた。
この人を信用仕掛けたオレが馬鹿だった。
誤魔化し笑いを耳にしながら、金輪際彼女を信用しないことにしようと心に決めたルルーシュだった。

「ルルーシュ〜、怒ってる?」
「いえ、別にっ」
「や〜んそんなに怒らないで。ね、スマイル?」

何がスマイルだっ(怒)

頭に来たルルーシュは、機嫌を窺う猫撫で声を押し退けて、部屋を出ていこうとした。
「ちょ、どこ行くのよっ」
「どこでもいいでしょう。これも脱がせてもらいますからね!」
「うっ、…仕方ないわね」
言い捨てて背を向けたルルーシュに、ミレイはピュイっと口笛を吹いた。
途端、どこに隠れていたのか、人影が背後に現れ、逃げる間もなくルルーシュを羽交い締めにしてしまった。

「っ!?お前」

「…この手段だけは、使いたくなかったんだけどね…」
驚くルルーシュにわざとらしい悲哀を浮かべ、ミレイは瞳をそらした。
「ごめんね、ルルーシュ」
同じく、人影−スザクが申し訳なさそうに謝った。
その服装はルルーシュとはまた違い、古典的なセーラー服姿で、頭には三つ編みが二本揺れている。
「あ、これつけ毛だから」
いや、だれも聞いてないから。
視線に気付き説明をしてくれるスザクに、ルルーシュは内心突っ込みを入れる。
「スザク、これは一体どういう−」
「今、出ていってもらっちゃ困るってことよ」
「!?カレンっ」
物陰から音もなく現れた彼女に、ルルーシュは思わずその名前を呼んでいた。
「二人とも、さっさとはじめるわよ」
状況を飲み込めない、約一名を置き去りにしたまま、ミレイがパチンと指を鳴らした。すると、あれよあれよと化粧道具がルルーシュの目の前に並べられていく。
「−はい、少し我慢してね」
「うっ、な、わっ」
無理矢理顔に何かのクリームを塗られ、ルルーシュはもがいたが、スザクに囚われたままで、逃げる事が出来ない。
「会長っ、これはどういうつもりですかっ」
何とか自由のきく首をひねり、ルルーシュはミレイがいるだろう方向を振り向いた。
見れば彼女は鼻唄混じりに、この部屋のどこにそんな大きいものを隠してあったのか、様々なカメラ機器を準備を着々と進めていた。
「見てわかんない?撮影会をするのよ」

「…誰の」

「ルルーシュの」
「!!!!!!」

あっさりと言われ、ルルーシュは声にならない叫び声を上げた。
「だって、最初から言っちゃったら、ルルーシュ生徒会室に来てくれないでしょう?」
「当たり前だ!!」
ここにきて 、ルルーシュはようやく疑問が解けてきた。
これは最初から計算された計画だったのだ。
「だって、男女問わずルルーシュの写真って、人気あるのよ〜」
言われても、そんなの全く嬉しかない。
「全部、このためだけに仕掛けられていたって、ことですか?」
怒りと屈辱に震える唇で問えば、ミレイは意味ありげな微笑みを浮かべただけで、何も答えなかった。

しかし、それこそが答えだった。

つまりは、自分に女装させ、尚且つ自ら生徒会室に乗り込まさせるために、仕掛けられたイベントだったのだ。
「ホラ、動かないでってば」
「カレンは何で手伝ってるんだ?」
こういうことに、一番興味なさそうなのに。
ルージュを塗ろうとするカレンに、ルルーシュは恐る恐る尋ねた。
「それは−」
「もしかして、弱味でも握られたか?」
「うっ」
どうやら図星らしい。
言葉に詰まるカレンの様子に、ルルーシュは内心ほっとする。
カレンまでミレイのようになられては、たまったものじゃない。

問題は−、

「で、スザクはどういうつもりだ?」
思いきって、覚悟を決めて尋ねてみた。
「ん?」
「や、だから−」
質問の意味が解らないのか、聞き返す声に焦れったく口を開いたとき、ちょうどそこに機材のセッティングを終えたミレイがやってきた。
「スザクくん、はいコレ」
「!ありがとうございます」
「本当なら終わったらって約束だけど、忘れないうちに渡しておくわね」
ミレイは制服のポケットから、少し大きめの手帳のようなものを取り出し、スザクに手渡した。
「何だそれは?」
嬉しそうに、それをしまいこむスザクに、ルルーシュは純粋に聞いてみた。
「ええと、これは…」
何故か目を泳がせ言い淀む彼に代わり、ミレイが自慢気にその疑問答えてくれた。
「んふふ〜、名付けてあたしお手製の『ルルちゃんメモリアル集』よん♪」


「はい?」

「だから、あたしが密かに集めた、ルルーシュのあ〜んな写真やこ〜んな写真がめ・じ・ろ・お・し」
コレ作るのに苦労したと、切々語るミレイの話など、悠長に聞いてる余裕などなかった。
あ〜んな?こ〜んな?写真なんて、いつ撮られただろうか?
いくら思い返そうとしても、記憶がない。
思わず、得たいの知れない恐怖に、ぶるりとルルーシュは体を震わせた。

「ルルーシュ、大丈夫?」
「……スザク」
ルルーシュは呆然と口を開いく。
「な、なに?」
「…それ、後で没収な」
「ええ!?」
ショックを受けつつも、ルルーシュはスザクにしっかり釘を刺しておく。
正直もう、何対して怒ればいいのか、それとも嘆くべきか。ルルーシュにはどうでも良くなっいた。が、それでもそれはそれこれはこれ。抑え所は抑えなければいけない。
しかし、そんなギリギリの精神状態のルルーシュに、ミレイはのんきな声で容赦なくトドメをさした。

「大丈夫よスザクくん、まだあるから」

「へ?」
ミレイの発言にスザクではなく、ルルーシュが思わず声を上げた。

「初版はさすがにそれでラストだけど、まだ第ニ版があるし、第三版予定もしてるから」
「…もしかして、一冊だけじゃないんですか?」
「やぁね、だから言ったじゃない。男女問わず人気あるって」

あ、駄目だ。

朗らかに笑うミレイの声を最後に、ルルーシュの意識はぷっつりと切れ、真っ暗になった。

「わー、ルルーシュっ!!」
「今がチャンスよ、カレン制服乱しちゃって」
「ええっ!?」

遠くで三者が口々に騒ぎ立てる声が聞こえたが、逃避一辺倒のルルーシュには、もうどうでも良かった。

ただ、せめて夢の中だけでは平穏でいたい。それだけが彼の切なる願いだった。










(涙)




春先に思い付いた、本当にベタベタなお話です。
いやぁ〜会長は偉大だ(笑)


小説(学園編)

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