「…そういえばさぁ」
ファション雑誌をめくっていたミレイが、ふと呟いた。

いつもの生徒会室。いつものメンバーがいつも通りまったりと時間を過ごす、いつもの放課後。
それは、こんな何気ない一言から始まった。

「昼間のあの話、本当なのかしら?」


「あの話?」
ミレイの隣で、彼女のもつ雑誌を一緒に読んでいたシャーリーが、不思議そうに小首を傾げる。
「もしかして、ルルーシュのこと?なら、オレも聞いた聞いた」
携帯ゲーム機で遊んでいたリヴァルが、二人の会話を聞き付け、はいはいと割り込んでくる。
「…それなら、私も聞いたよ」
リヴァルに続き、窓辺で分厚いハードカバーの専門書を読み耽っていたニーナも、文面から顔を上げ答えた。
そう言う二人に、最初は解らなかったシャーリーも、あれかと声を上げた。
「あの話ね〜。私も聞いたけど、…あれってもうとっくに誰かが言ってくれたんじゃない?」
「いやでも、あのルルーシュに真正面から言える一般生徒は中々いないだろ」
微妙な苦笑いを浮かべるシャーリーに、リヴァルはいやいやと首をふった。
校内でも人気の高いルルーシュだが、確かに彼のどこか人を寄せ付けない威圧というか、孤高じみた雰囲気は近しいものならまだしも、他の人間は臆してしまうだろう。
「ええっ、もしそうなら、あたしは言いたくないわよ!?」
しかし、近しいメンツにとっては、別の意味での言いづらさがあった。
「あれで以外と繊細だからね〜、あいつ」
雑誌をめくりながら、しみじみとしたミレイの言葉に、一同失笑しながら頷いた。
見た目こそ一見不遜そうに見えるが、実はガラスのハートなのだ彼は(笑)


コンコン。


と、そんな微妙にぬるい空気の中、室内に扉をたたくノック音が響きわたり、瞬間、皆の動きが止まる。
「こんにちは。…って、皆どうしたの?」
室内に入ってきたカレンは、自分に注がれる異様な視線に、思わずカレンはドアノブを握ったまま固まってしまった。
「何だ〜カレンか」
「…もおぉ、脅かさないでよぉ」
「はあ?」
事情が解らず怪訝な表情を一人浮かべる彼女に、シャーリーが慌ててフォローに入いる。
「ごめんね。ちょっとルルーシュの話をしてて」
「ルルーシュの?」
「そう。彼の噂を話て−」


「オレの話がなんだって?」
「!!!!」


カレンの背後、開いた扉からひょっこり現れたルルーシュに、今度こそ皆固まった。
何てお約束なタイミングの登場なのか。
全員(事情を知らないカレン除く)声にならない叫びを上げる。

「?どうしたんだ、皆で変な顔をして」
そんな皆の心中など知る由もない、ルルーシュはその態度に怪訝に眉を潜め、とりあえず近くにいたカレンに声をかける。
「さあ…?あたしも今来たところだから、よくは。…?ルルーシュあなたそ―」
「!カレン、こっち来てっ」
振り返りルルーシュを見て何かに気づいたカレンを、シャーリーは半ばひったくるようにルルーシュの前からかっさらった。
「ナイス、シャーリーっ」
「あ〜、危なかった」
「ちょ、いきなり何するのよ」
「言っちゃダメ、ダメよカレン」
意味不明な事ばかり言われ戸惑い文句を言おうとしたカレンだが、それをミレイが有無を言わさずがっしりと両肩を掴んで黙らせた。
「!…もしかして、噂って…」
その皆の言動の流れから察しただろう。ルルーシュを横目で見やり呟くカレンに、皆が沈黙で肯定を示す。


「……本気?」

半眼するカレンを置き去りにし、かつてない緊張感に、彼らは息を飲んだ。



(何なんだ、一体?)
皆の自分に向けられる、何とも言えない視線に、ルルーシュは一人困惑していた。
見てはいけないものを見るような、そんな視線である。

…もしや!?
良からぬ考えが脳裏に浮かび、ルルーシュの額にうっすらと汗が浮ぶ。
自分がゼロだということが、バレたのだろうか?それとも、日頃の行動に何か不信感を与えるようなことをしていたのか…。
考えれば考えるほど、どんどん疑心が強くなっていく。

いや、待て。
ルルーシュは言外に、かぶりふり、考えに歯止めをかけた。
その考えに行き着くには、まだ時期早尚だ。逆に下手に自爆になりかねない。
まずはそれとなく、探りをいれてみよう。
ルルーシュは現状の打開策を、思案しはじめた。


「…で、どうする」
「どうするって、言われても」
「あ、あたしは嫌よ。気まずくなるじゃないっ」
「でも、言ってあげなきゃ、ルルーシュのために」
「あー、面倒くさい!さっさと言っちゃえばいいのよっ」
《だぁぁああ、待った待った》
業を煮やさしカレンが行こうとするのを、慌てて全員で止めにかかった。
何だかんだで話し合い(小声)の結果、ルルーシュ本人に直接いってしまおうということになったのだが。

「だって、これじゃあいつまでたっても埒があかないじゃない」
「だからぁ、待てってば。物事にはタイミングってものがあるんだから」
苛立ちを隠さないカレンに睨まれ、リヴァルが及び腰になりながらも訴える。
「だったらリヴァル、アンタが言いなさいよ」

「え?」

「あ、賛成」
「ええっ!?」
女性の中に男が一人は、非常に分が悪い。
女性陣の勢いに、リヴァルが押されまくる。
と、その時。

「…そう言えば−」

一人残されていたルルーシュが、唐突に口を開いた。
皆の視線が一斉に集まる中、ルルーシュが続ける。
「最近、見慣れない緑髪の女性を校内で時折見かけるんだが。あれってうちの生徒じゃないよな?」

シーン…。

しかし、何の反応もかえってこなかった。
どうやらこの話題は期待外れだったようで、直ぐ様皆、再びボソボソと何やら話し合いを始めた。

(クッ、これじゃなかったか。これで可能性は11968通り減った)
その予想外の反応に、ルルーシュは小さく舌打ちをした。
しかし、ここで諦めるわけにはいかない。
まだ、自分には確認しなければならないことが残っているのだ。
挫けるわけにはいかない。
ルルーシュは言外に、叫んだ。

(あと、残された可能性は208471通り試さなければ!!)

…下手に頭が良いのも、困りものです。


「私、…言ってみる」
今まで口数少なく、黙って考え事をしていたニーナが、意を決して口を開いた。
「この中じゃ、私が一番ルルーシュと親しくはないでしょ。そういう人が言った方が、ダメージが少ないと思うの」
彼女なりに色々考えて、至ったであろうその言葉に、一同が静まり返る。
「ニーナ…」
ミレイはじめ、皆が彼女の気持ちに心を打たれたのだ。
「そんないいよ、ニーナ。それだったらあたしが言うわ」
「シャーリー…」
「何いってるの、この中じゃ、一番ルルーシュと付き合いが長いのはわたしよ。あたしから言った方がいいんじゃない?」
「や、会長。それなら同性から言ってやった方が…」
まさに先程とは打って変わってである。
しかし、互いに自分がというのも考えもので、これはこれで中々決まらない。

(…言っちゃおうかな)

互いに譲らない面々を端から眺めつつ、カレンはぼんやり思う。
ルルーシュも先程から、何やら一人苦悩している様子だし、他の役員もこれじゃ、事態は一向に終わらないじゃないか。

(他の役員…?)
そこで、カレンは引っ掛かった。

そういえば、一人足りない。
その人物が誰なのか。カレンが思い出したその時だった。


「ごめん、遅れちゃって」
その最後の生徒会役員メンバーが、ひょっこり現れた。
「皆どうしたの?」
場の雰囲気にそぐわない、きょとんとした声を出しながら、スザクは室内を見回す。
「あれ、ルルーシュ。どうしたのそんな所一人で?」
そして、皆と離れた場所に一人いるルルーシュを見つけ、不思議そうに尋ねてきた。
「あ、いや。別に−」
「…ルルーシュ、今日の昼食日本食だったでしょ」
もごもごと、口の中で言葉を咀嚼するルルーシュを見て、何故かスザクは突然そんな事を言う。
「?そう、だけど…」
怪訝に答えるその傍に、何も言わずにいたずらっ子の笑みを浮かべスザクが近づいた。
そして−


「ここ、ごはんつぶついてる」


「!」


−バチーン!!


(あ〜〜〜…)

やっちゃた。
当事者を除く、その場の全員の胸中にそんな言葉が浮かんだ。

「〜〜っ、スザクのバカァ!!」

らしくなく叫び、真っ赤な顔したルルーシュが猛ダッシュで走り去っていった。
後に残されたスザクは叩かれた片頬を押さえて、ぽかんと立ち尽くす。

「…ぼく何か悪いことしたかなぁ?」
こちらを振り向いて、尋ねる彼は本気で?と顔に書いてあった。

や、悪いことも何もアンタ。
もう、何から突っ込めばいいのやら。笑うしかない面々である。
「…スザク、悪いことは言わない。早くルルーシュに謝ってこい」
リヴァルがそれだけは頼むと、スザクの肩をたたいた。
皆も一様に神妙な面持ちで頷く。

だって、ねぇ。

そりゃあ皆ごはんつぶが口の端についてるって、中々言い出せなかったのは悪いけど。

だからって、ねぇ…。

「ラブラブなのは解ったから、公然で唇でごはんつぶを取ってあげるのは止めた方がいいわよ」

指でとりなさい指で。

最後に額を押さえながら、カレンが念押しをした。


「?うん」
いまいち腑に落ちないといった感ではあるが、とりあえずスザクはそれに素直に頷いた。その様子に、一同何ともいい難い不安を覚えたのは、言うまでもなかった。



(苦労してんなぁ〜、ルルーシュ)


天然の恐ろしさを目の当たりにし、皆本気でルルーシュに同情したのだった。









合掌。




気づいた方もいるかもしれませんが、とあるギアスのCDのお話を元にした妄想小説になっています。
黒うさぎはもちろんルルーシュ。一見黒いようで純情属性( ̄∇ ̄)


小説(学園編)

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