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□貫く愛を信じて
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俺達は、きっと上手くいく。
男同士だろうが
住む世界が違おうが
俺達に限って、障害は無いと信じていた。
今の今まで―。
「英二〜、早く朝ご飯作ってよ。今日は、アンタの番よ!」
「ほ〜いっ」
いつもの朝、いつものように、賑やかな菊丸家。
俺は、急いで下に下りて、玉子を大量に割っていく。
「とうちゃんと、かぁちゃんと、ねぇちゃんと、ちぃねぇちゃんと、にぃちゃんと、ちいにぃちゃんと、俺の分!………っと、あと景吾の分も///」
景吾と付き合いだして、もう2年目になる。
勿論、家族には、恋人同士ってのは内緒だけど、皆、景吾の事は気に入っている…はず。
こうして、家に泊まりに来るのも、もぅ何度目かにゃ。
「ほぃ、景吾。」
「ありがとよ。」
出来上がったフワフワオムレツを手渡しながら、お互い微笑み合う。
何か新婚さんみたいで、くすぐったい。
「ほら、2人とも、急がなきゃ、朝練遅れちゃうよ。1年生から遅刻はマズイでしょ。」
ねぇちゃんに言われて時計を見るともう出なきゃいけない時間だ。
高校1年生になった俺達は、同じ学校で同じ部活に所属している。
俺は、かなり頑張って、氷帝学園高等部に進学した。
まぁ…テニス推薦だけどね。
そんなこんなで、俺達は今、かなりの時間を一緒に過ごしている。
「菊ちゃん。おはようさん。」
「あ、忍足おはよ〜」
「今日のフォーメーションの練習やけどな―」
「うんうん。」
ダブルスは、忍足と組んでいる。
景吾は、確実にシングルス向きだし、次期部長だしで、流石に組めなかった。
最後まで、俺とダブルス組むって言って聞かなかったんだけどね。
今では、忍足と俺は新生黄金ペアとして、1年生ながらレギュラー候補なんだ。
「チッ、英二、行くぜ。」
一気に不機嫌な景吾。
本当に判りやすいよにゃ。
「ほいほい、んじゃ忍足、放課後部活でねぇ。」
「あぁ、ほな。」
と、耳元で忍足が囁く。
「(菊ちゃんも、大変やな。困った事あったらいつでも言ってや。)」
「うん、ありがと。」
忍足はいつも優しくて、気を使ってくれてる。
忍足がダブルスのパートナーで良かったなって思う。
「何こそこそしてやがる?」
「何でもにゃ〜い。」
忍足にヒラヒラ手を振って、景吾の隣に並ぶ。
真っ直ぐ前を見据えて歩く姿を横目で見ながら
「(やっぱ、カッコイイにゃ。)」
頬が熱くなる。
でも、周りを見ると、俺と同じように景吾を見て頬を赤く染めてる女子が大勢いる。
「はぁ…相変わらず、大人気だね。景吾。」
ため息混じりに言うと、景吾は決まってはっきりと言ってくれる。
「100人の女より、1人のお前だ。俺様には英二の視線だけしかいらねぇんだよ。」
「うっ…///気障なヤツ」
「本心だから仕方ねぇだろ。」
いつもこんな感じだから、つい錯覚してしまう。
俺と景吾が付き合ってても、違和感無いんじゃないかって。
でも、やっぱり男同士だから、バレたら大変だよにゃ。
俺はともかく、景吾は…跡部財閥の御曹司で、将来は色んなものを背負って生きていかなくちゃならない。
「バレちゃいけない…」
けど、景吾ってば、こんな感じだから、敵も多いんだよにゃ。
「菊ちゃん、大変やで!」
昼休み、忍足が紙を持って、俺の教室に現れた。
「何?どうしたの?」
「侑士、うるせぇ。」
遊びに来てた向日とお弁当を食べ終わって、オヤツのプリンを開けようとしていた俺は、忍足を見る。
「跡部は?」
「生徒会の用事で呼び出されて行っちゃったけど?」
「そうか…。」
「それで、何が大変なの?」
「あ、せや。これや、これ。」
忍足が持って来た紙を俺の机に置く。
「!?」
「何だよ!これ。」
置かれた紙に目を落とすと、景吾と俺のツーショット写真と、悪意に満ちた言葉が綴られていた。
『跡部景吾は男が好き!ターゲットは菊丸英二。』
「ひ、酷い…。景吾が見たら…。」
「あぁ。一応、宍戸と滝とで学校中のチラシ排除したんやけどな。」
「ありがと。忍足。」
「…そないな事何でもないねんけど、菊ちゃんは大丈夫か?結構このチラシ出回っとったさかい、見とる人多いで。」
心配そうに俺の顔を覗き込む忍足。
「うん、俺は大丈夫ぃ。本当ありがと。忍足。」
ブイサインで笑った俺を見て、忍足も笑う。
「せやな、菊ちゃん強いもんな。なんたってあの俺様と対等に付き合えるんや。」
「あははっ。そうそう。」
「何かあったら、俺達に言えよ。皆、菊丸の見方だからな。」
頭をガシガシ撫でる向日。
「にゃぁっ!セットが崩れる〜。もぅ、向日のばぁか。」
「よし、それだけ元気があれば大丈夫だな。」
「!!」
もぅ、コイツ等…。
本当良い奴ばっかだよにゃ。
ありがと。忍足、向日。
3人で話していると、昼休みも終わりに近づき、教室に入って来る女子達がチラシに目を留めて、俺の方へ寄ってくる。
「菊ちゃ〜ん、このチラシ本当?」
今、3人とも、たぶん同じ顔してる。
…何て言えば。
俺は、罵倒の言葉を覚悟して、下を向いた。
「けどさぁ、菊ちゃんならアリじゃない?」
女子の言葉に顔を上げると、俺の顔を覗き込む女子達。
「そうそう、悔しいけど、可愛いしさ。」
「跡部くんと並んでも引けを取らないし。」
「てか、お似合いだよねぇ」
えと…。
これって、本気なのかにゃ?
「そうかにゃ…」
「ありがとよ。」
「ほぇ///景吾」
今、委員会の仕事が終わって教室にに戻って来たらしく、いきなり後ろからギュッとしてくる景吾。
耳元に息がかかって擽ったい。
「きゃぁ、噂をすれば。」
「うんっ、2人やっぱ似合ってるよ。」
「抱き合ってる所なんて超良いじゃん。ね、ね、写メ撮っていい?」
やっぱり、本気みたいだ。
女子達は、きゃあきゃあ写メを取ったり、馴れ初めを聞いてきたり、ひとしきり騒いで、
「じゃあ、お幸せにねぇ」
手を振りながら、席に戻っていった。
「ほぇ〜、助かったぁ…」
ぐったり机にうつ伏せになると、頭を優しく撫でてくれる景吾。
「英二、お前には、絶対嫌な思いさせねぇからな。」
「景吾…」
顔を上げると、景吾の強い瞳と視線がぶつかる。
そして―
「てめえ等、ありがとよ。」
忍足と向日に頭を下げる景吾。
「止めえ、気持ち悪い。跡部の為やない、菊ちゃんの為や。」
「そうだぜ。相手が菊丸じゃなかったら、誰が協力なんかするかよ。」
仄かに赤い顔の忍足と向日。
やっぱり、中学からの仲間だよにゃ。
口ではあぁ言ってるけど、ミンナ景吾の事心配なんだ。
「フッ、わかってるぜ。これは俺様の英二の為にありがとよって意味だ。」
「ぷっ///」
思わず笑いが出ちゃって、3人が同時に俺を見る。
「あ、ごめんごめん。何か、仲間って良いなぁって思って。」
微笑みながら、不二の顔が脳裏に浮かぶ。
そして、次々に現れる青学メンバーの姿に、涙が出そうになった。
「英二。」
フワリと優しく抱き寄せられる体。
思わず少し上にある顔を見上げると優しい表情の景吾が俺を見る。
「お前も、もうコイツ等と同じ大切な仲間だ。余所者なんて考えるんじゃねぇ。」
「…っ」
景吾は何時も俺の欲しい言葉を、絶妙のタイミングでくれる。
「せや、菊ちゃんは大切な最良のダブルスパートナーと思っとるで。菊ちゃんおらんかったら、ダブルスでけへん。」
「俺だって、菊丸はこの氷帝に不可欠だと思ってるぜ。」
「うぅっ…有り難う。皆。」
俺の居場所は、此処にちゃんとあるんだ。
そう思うと、嬉しくて、自然に景吾の腕にしがみ付き溢れる涙を堪えるのに必死だった。
「とりあえず、何とも無く1日が終わったね…。」
「あぁ、大丈夫だ。誰にも何も言わせねぇ。寧ろ牽制出来て願ったりだぜ。」
肩を抱かれながら、いつものように景吾の車に乗り込む。
「…えと、景吾。家寄ってく?」
「あぁ。…珍しいな、英二からの誘いとは。」
「うん///何か、今日はもっと一緒に居たくて///」
「フッ、珍しく素直じゃねぇか。アーン?」
俺の肩を抱く手に力が入る景吾。
そして、目が合った瞬間、どちらからとも無く口唇を重ねた。
「どうぞ、景吾。」
「あぁ。」
「ただいまぁ!」
玄関のドアを勢い良く開けると―
「ほぇ!?どったの?皆。」
家族全員が玄関に居た。
そして、俺と景吾を見ると、
「あ、跡部くん、英二を送ってくれてありがとう。」
「でも、もぅ明日から良いからね。」
「俺が英二を迎えに行くから。」
「これからは、英二のお守りはもう良いからね。」
次々に一方的に喋りまくると、
「じゃあ。」
パタン
景吾を締め出してしまった。
「どーゆー事だよ!?」
俺が問いただすと、無言で差し出されたチラシ―。
「そ…それ、どうしたんだよ!どっから…」
「ご丁寧に家のポストに入ってたのよ。」
母ちゃんが目を伏せたまま答える。
「英二、わかってるな。景吾くんとは今後あまり親しくしないように。」
目の前が真っ暗になった。
まさか、家族にバレちゃうなんて。
いや、バレても大丈夫なんじゃないかって、最近はそんな風に思ってた。
でも現実は―
やっぱり、厳しく俺達の上にのしかかってきた。
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