短編

□深海魚
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最愛の人がいた
わたしは彼の指の隙間をするすると通るさらりとした胡桃色と栗色が混じったようなあの髪が好きだった。その綺麗な薄い唇からこぼれるように出る甘い睦言もおどけた冗談も好きだった。ときどき謎めいた冷たい雰囲気を纏って現れる、あの刹那が好きだった。あなたの身体を包む爽やかで大人なコロンにドキッとしたし、微かにまじる鉄みたいな錆のような香りも愛おしかった。あなたさえいれば、なにも恐れはしなかった。


I, ――, take you ――, to be my wife, to have and to hold from this day forward, for better or for worse, for richer, for poorer, in sickness and in health, to love and to cherish; from this day forward until death do us part.


わたし――は、――を妻とし、この日よりこれを迎え、良い時も悪い時も、富める時も貧しい時も、病める時も健やかなる時も、死が二人を別つまで、これを愛し、大切にすることを誓います。

なんてそんなことを幼稚園のごっこ遊びみたいに言い合ったりもしたっけ。冗談みたいな約束、約束みたいな冗談、をしたことは覚えてるのに、そのくせに、その時あなたはどんな顔してたんだろう霞んで見えないんだ、思い出せないどうしよう。

ねぇ、ニール
いるなら出てきて

こんなのないよ言うなら私は鬼ごっこの鬼であなたは追われるほう、隠れん坊にしても私は探す方であなたは隠れる方ね。

ねぇニール
いるなら出てきて

これほど無意味なことってない。あなたは逃げる天才であなたは隠れる天才で、私が持てるすべてのコネクションを使っても見つからない。


ねぇニール
お願い出てきて
出てきて私を抱きしめて、




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