少年陰陽師

□火事
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火事




『…我は此処に在らず。我は黒き瞳に映らず…』

静かに言霊を発する。
そして、堂々と…とある敷地内に入り屋根に飛び上がった。


『陰陽寮ね…。ここには用がないんだなぁ』


ひょいひょいっと屋根をつたいながら目的の場所に向かう。

昼間に屋根の上を黒い鬼のお面をした不審な者が歩いているというのに、誰一人としてこちらを見もしない。
否、見ていたとしても視界に人影が映っていないというのが正しいだろう。

黙々と歩いていた足がぴたりと止まった。
それと同時に濃紺の狩衣が風に揺れる。

『ここら辺でいいか…』


懐に手を入れ、紙を取り出す。
赤黒く染まった紙だ。



その紙を紙吹雪のようにするため千切る。
紙吹雪になった紙。
両手でその紙を包むと、一気にばら蒔いた。

『我の意思の赴くままに』

ばらまかれた紙吹雪は風に飛ばされず、まるで意思でもあるように邸内に入っていく。


これでしなきゃいけない事は成し遂げた。

『火種は育って業火へと変わる』

もうここには用はないとでもいうように、振り返りもせず黒い鬼はその場所から去って行った。



燻り始めた火種を残して…。




焦げ始めた感情

真っ黒に
真っ黒に
真っ黒から
真っ赤へと







火事

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