少年陰陽師
□書簡庫
1ページ/2ページ
書簡庫
「…なんだ?」
陰陽寮の端にある書簡庫。壁面にある棚には、沢山の書物や巻物が収められているその部屋に、一匹の物の怪と一人の少年がいた。
部屋の北方についている明かり窓からは、なにやら人の叫び声が聞こえてくる。
「なにかあった!?」
書簡庫で記録書などを読んでいた少年昌浩は、窓から聞こえてきた叫び声に立ち上がった。
妻戸を開け簀子に飛び出ると、瞳に映ったものは黒い煙。
「…火事だな」
少年昌浩からは「もっくん」と称されている物の怪。
大きな猫でも犬でもないような姿形をしている物の怪は、冷静に言葉を発する。
「見りゃわかるっ」
誰が見ても一目瞭然のことを言われ言い返す。
「だが、ただの火事でもないようだ」
「え?」
「火の手が上がっているのは、多分清涼殿から後宮にかけてだな。……まだ明るいこの時間に灯篭でも灯したのか?」
まだ…明るいのに……?
今は夏の盛り…。日が落ちる頃とはいえ、まだ明るい。
この時間帯に照明を点ける必要はないはずだ。
.