向日葵の君

□003
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私はがたん、ごとん、と左右に揺れる電車の中に一人座っている。

日本に越してきて2週間ほどが経ちある大会のことを父さんから聞いた。日本の実力も知りたかったからすぐにOKを出したけど。




『何で16歳以下の部にエントリーするのよ…ばか親父。しかも男装なんて…』



っておっとォォォ!!
男装してるのに女言葉使ってしまった!!
周りをキョロキョロと見回して誰も自分を見てないことを確認し、安堵のため息を吐いた。

……まあ16歳以下の部にエントリーしたことはもう許そう。
私を理解した上で男子として登録してくれたし。
そう一人ごちていると目の前にいた高校生がラケットを振り回して騒ぎ始めた。




「お前ら自分のグリップの握り方もしらねぇのかよ!トップスピンを打ちてぇならウエスタングリップだろ!!
こうやってラケットの面を立てて握手する感じで握んだよ」


「おおーさすが佐々部!!」



「バーカ当然だろ!!」



そういってラケットをブンブンと振り回す。
うわー何アイツめちゃくちゃウザッ!!
ジト目で奴らを睨んでたら一人ビクビクと怯えながら座っている少女が目に入った。

振り回してるラケットが彼女ぶつかりそうだ。
あーそりゃ怖いわ。
何とかして助けたいと思った私は高校生にむかって言い放った。




『あのー、ちょっとうるさいんですけど』




私がそういうと高校生がこちらに振り向いた。あれ……こんな場面どっかで見たことあるな。





「は?………おっと」




まるで子供のようにはしゃいでいた高校生は電車の揺れによりラケットを落とした。





「だっはっは!参ったぜまさか小学生に注意されるとは……」

そういってラケットを握ろうとする高校生に私はさっき気づいたことを言った。






『馬鹿にするようで悪いけど置いたラケットを上から掴むように持つのが正しいウエスタングリップ。ちなみにあなたの言う“握手するように”はイースタングリップだよ』



「よくいるんだよね逆に覚える人」といいながら帽子を深く被った。
………うわ、勇気だして言ってみたけど、やっぱり生意気すぎたかな?
私だったら絶対殴りかかるな。え、どうしよ!

なんてチキンな事を思っていたけど天の助けとばかりに「青春台」とのアナウンスがかかった。
ナイス車掌さああん!
高校生は仲間に笑われながら恥ずかしそうに電車を降りていった。うあー……良かった。




『………あ、私も降りなきゃ』





慌ててテニスバッグを肩に掛け、急ぎ足で電車を降りた。





《駆け込み下車はお止めください》

(駆け込み下車ってなに!?)





 


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