誕生日夢
□阿伏兎
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『あん?なんやコラ、ぉ゙お゙?』
「…。」
な…なんだコレは…。
団長の付き合いで再び地球に降り立った。
ああ、やっぱりかと思いつつもかぶき町へと進んでいく団長の後を黙って着いて行ったらこの始末。
口も性格も悪そうな目の前の女は俺におもいっきり己の肩をぶつけ極悪面でメンチを切る。
商売道具とも言える色気を出すためか似合いもしない着物を少し着崩し身に纏うこの女はおそらく未成年だろう。
飾りはきらびやかだが容姿がこの街には似合わない。
俺がそう分析している今も尚、女は汚い言葉を吐き俺を睨みつけていた。
「阿伏兎ー。あーぶーとー、何してるの」
「ん?ああ、悪ィ。今行く。
悪ィな嬢ちゃん。じゃあな」
『ちょい待ちィなおっさん!!人にぶつかっといて頭も下げんのかい!!』
「は?」
俺はおもわず歩き出そうとしていた足を止め再び女に向き直る。
先を歩いていた団長も目を丸めこちらにやって来た。
「さっきから何やってんだよ。何この娘」
「いや、ぶつかって――」
『おう、お前がな。お前がぶつかってきたんやろがい』
「は?ちょっと待てオイ。ぶつかったのはそっちだろうが。なに全部オレのせいにしてんだ」
『あ゙ん゙?寝言もたいがいにせいよコラ。往生際が悪いっちゅうねん。もっかい言ったろか?』
「いやいや待てや。おめェさんおもいっきり肩動かしてたじゃねェか。助走つける勢いだったじゃねェか」
『おうそうや。助走つけたら悪いんか。アレがアタシの歩き方や。アンタがとやかく言う筋合いないけどな』
「……」
…こいつ、当たり屋か?
いやでも別に何も請求されてねーしそこまでタチの悪いもんでもねェか。
互いに睨み合う俺達の間に慣れない仲介役として割って入ったのは団長だった。
「もういいじゃないどうでも。阿伏兎もここは大人になって謝っとけば?」
「あんたはそんなに早く女の巣に行きたいのか」
「ああ行きたいよ。だからさっさと済ませてよ」
「この万年発情野郎め」
こんな時まで涼しい顔をしてさらっと言ってのける団長に嫌気がさす。
だがラチがあかねェ。ここは大人の俺が食い下がるしかないのだろう。
「悪かったよ。まぁ正直お互い様な気がしてならねェが…俺も大人げなかったな。すまん」
『それだけかい。』
「「は?」」
隣の団長とハモった。
大の大人が頭を下げた(しかも半ば強要されて)というのに女は鋭い目を崩さない。
『あんたなァ、謝りゃ済む思てんのかい。この街はんな優しくないで。何かを許してもらうにはそれ相応の礼を献上せなあかんねん。この街の常識や』
「……」
「……」
せ……、
請求されたァァァァァ!!
前言撤回だ。この女はものすごくタチの悪い当たり屋だ。
「さすが水商売の女だな。ガキのくせして性格が捩曲ってやがる」
「落ち着け」と自分に心の中で呟きながらも顔がひきつっているのがわかる。
このままでは収拾着かない。多分こいつはものすごくしつこい。
俺はどうしたもんかと弱りきる。
「何負けてんだよ阿伏兎。こんな小娘に本気になりすぎだ」
「あ?」
「お嬢さん。俺達をなめてもらっちゃ困るな。まぁあんたにしては阿伏兎みたいなおっさんはちょうどいいカモなんだろうけど」
「誰がカモだ」
『なんやアンタ。文句あるんかい』
なんていう怖いもの知らずなんだ。
女はあろうことか団長に食ってかかる気らしい。
団長の性格を知らないコイツは目の前の男を単なる優男と勘違いしているらしい。