†FreeButterfly†

□〜第三章〜
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月明かりに照らされた室内。響くのは時計の無機質に時を刻む音と、
ベッドから聞こえてくる健一の寝息。そして―――。

静かにカーテンを開け窓の下を覗き込むカイの殺した息使い。
マンション下も今は昼間の喧騒が嘘だったかのように静まり返っている。
それを確認し、カイはホッと胸を撫で下ろした。

「ほなお外も静かになった事やし、ちょっと言ってくるわな」

健一が眠っているであろう寝室への扉へ向かって呟くとさらさらと一枚の紙に何かを書き記してそっとガラステーブルへ置いた。
ギターの入ったケースを肩に掛けて、出来るだけ音を立てないよう気を付けながらカイは玄関を出て行った。


人気のない、ある種不気味な雰囲気のある玄関ホールを抜け深く息を吐いていると後ろから突如声をかけられた。

「何処へ行くのかしら?」

振り向いてみれば其処に居たのはにっこりと不適に微笑むマネージャー。
何かにつけて姿を現せるこの女性は一体いつも何処に居るのだろうとカイは少しだけ身震いしてみせた。

「健ちゃん寝てもーたし、ちょっとスタジオ行こうかな〜って」

久しぶりに音楽に触れられる事が嬉しいのかニコニコしながらそう言うカイにマネージャーは「そんな暇あるの?」と微笑みかける。あくまでも終始朗らかな態度だ。
マネージャーの言葉にカイはえっへんと胸を張って「大丈夫」と応える。深くまで話が出来た事でどうやら不安感が吹き飛んでしまったらしい。
しかしマネージャーは笑みを崩さず(むしろ笑みを深めたかも知れない)鞄から雑誌を1冊カイに差し出した。
カイはきょとりと大きな目を更に大きくしながら雑誌を受け取る。それは女性誌のようで、芸能人のスキャンダルなどが大きく乱雑に書き殴られている所謂下世話な内容の週刊誌だ。

「これ、読んでみて。もちろんスタジオ明けで良いわよ」

この時の事をカイは後に語る。―――女の笑顔に恐怖したんは初めてや、と。
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