†FreeButterfly†

□〜第ニ章〜
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窓から柔らかな光が差し込み、穏やかな風が上質なレースカーテンを撫でている。
シルクの布に包まれたカイが幸せそうに寝息を立てていると、



ジリリリリリリリリ




その高級感漂う部屋に凡そ相応しくないけたたましい機械音が鳴り響いた。
ベッド横に置かれたナイトテーブルの上の銀色に輝く目覚まし時計を片手でガシッと掴み、カイはデジタルの数字をじぃっと睨み付けた。
そこにはライトグリーンに彩られた『10』の数字。それを見た瞬間、物凄い嫌悪感を顔に浮かべて地の底から這うような声でカイが毒付く。


「まだ10時やないかぁ〜。誰じゃ設定したんはぁ。めっちゃシバく……」


そう言いつつもふくよかな抱擁に誘われ、再び眠りの世界へ旅立とうとしたカイの元に訪れたのは、他の誰でもない同居人健一だった。
最初は控え目に、段々とノックの音を激しくしていき最終的にはバンッと派手な音を立てて扉を開けた健一は手触りの良いカーテンを引き、部屋に明かりを取り込んだ。


「何寝てんだよ。おい、起きろよカイ!!」


「うっさいなぁ。分かってるよ拓ちゃあん。ちゃんとスタジオ行くて、、」


名前を呼ばれ、唸りながらもそう答えたカイは違和感に気付き勢い良く跳び起きた。
そこはいつもの部屋ではなく、そこに居たのはいつもの幼馴染みではなかった。
呆気に取られたカイに半ば呆れたように健一は「寝起き良いのか悪いのか分かんねぇ奴だな」と愚痴ている。
そしてカイは思い出す。昨日起きた一連の出来事は夢ではなかったのだと。
嘘みたいな映画の話も、その末に待っていた恐ろしい惨劇(言い過ぎ)も。
思い出したその内容に痛みだした頭を押さえてカイは今何時?と健一に聞いた。
先程布団の中で時間を確認していたはずなのだが、どうにも意識下での行動ではなかったらしい。
今が10時過ぎであると聞かされると、基本的に寝汚く昼前に起きる事の少ないカイは有り得へん…と呟きながら布団の中へ入って行った。
昨日本読むぞっつったろ!!と健一は負けずに布団を剥ぎ取りカイの腕を掴んだ。その瞬間。




パシャリ





背後から聞こえた不可解な音に二人がそろりと視線を送ると、普通にデジタルカメラを手にしたマネージャーが立っていた。
オレすっぴんやん!!嫌ぁぁ!!と嘆いているカイの横にもっと深刻に嘆いている健一が居た。

――え、ちょ、待、今のどう考えてもカイを襲ってる俺みたいな絵面だったよね!?――



「なかなか良い感じに仲良くなってるじゃない。役は掴めて?」



全く悪気の無さそうな雰囲気に腹が立った。何となく。







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