†胡蝶の夢†

□序章
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霧雨がそっと路面と道行く人を濡らしている。
ここは東京の片隅に今でもひっそりと残っている花街。明治と言う時代になり、昔の華やかさはなく、ひっそりと隠れるように存在している。入り組んだ狭い路地沿いは、夜になるとそれなりに華やかになるものの、どこか陰鬱で、どこか悲壮感が漂った空間だった。
 路地の奥には訳有りな住人が多数暮らす、居住区のようなものもある。日差しを拒むようなその場所で、彼はひっそりと暮らしていた。
 黒い千枚通しの扉がそっと開かれる。彼の元を尋ねてきた客人だった。客人の両腕に抱えられているのは、人と同じ大きさの人形。一見しただけでは人形とはわからない、精巧に造られた人形だった。だが虚ろに開かれた瞳には、やはり生気がなく。その物が人ではなく、無機質な物体であることを語っている。客人が奥へと声をかける。

 「周先生はご在宅かな」






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