†FreeButterfly†

□〜序章〜
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年は30代前半だろうか、キリッと描かれた眉が性格を象徴しているようで健一は若干眉をしかめた――だって気の強い女にはまるで良い思い出が無い――。



「高橋健一さんですね」



質問ではなく確認のように聞かれ、健一は目線を逸らせないままこくりと頷く。女性は見た目とは裏腹に柔らかい笑みを浮かべると鞄からオフホワイトの名刺入れを取り出した。


「初めまして。貴方にある依頼があって参りました」



そう言いながら女性が手渡してきた名刺。そこに印刷されている文字の列を健一は見開いた目を何度も往復させた。








   映東株式会社








そこには確かにそう、書かれている。一流と言われる役者、俳優を目指している者でその名を知らない者など居ない。
否、その辺を歩いている一般人だって10人に聞けば10人が知っていると答えるだろう。

歴代の興行収入トップを飾った映画は必ずと言って良いほどこの会社から出ているし、「映東の映画に外れ無し」という都市伝説まであるくらいだ。

もちろん、健一も映東で主演を取る事は世界に飛び立つ為の必須プロセスであると知っている。他の何でもないそれを目指しているのだから。

その映東が一体自分にどのような依頼を持って来たというのだろうか。皆目検討も付かず健一はその名刺を凝視したその角度を変えず目だけで女性を見据えた。

女性はあくまでもニコニコと優しく微笑んでいる。何故だろう。その笑顔が段々嘘っぽく思えてきた。健一は少しだけ視線を逸らした。






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