†FreeButterfly†
□〜第一章〜
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ふと見るとカイが目を大きく見開いて――零れ落ちそうな瞳に健一は思わず手を伸ばしかけた――映画界の常識を大きく勘違いする所だったと頷いた。
そのギャランティの桁も、その他報酬の豪華さも、この業界では当たり前なのだと思ったらしい。
だからこそ疑問を何一つ持たず了承したのだろう。
健一はカイの幼い動作にふっと息で笑いながら少しだけ(警戒されているので)(些かショックだ)身を乗り出して右手を差し出した。
「改めて、俺は健一。劇団“DOLLS”の高橋健一だ」
「…オレは“BLUE ROSE”のヴォーカルやってるカイ。よろしくな」
そう言って差し出された手をやんわりと握り返してカイは緩く微笑んだ。ようやく気が鎮まってくれたようだな、と健一はひっそり安堵した。
「ま、億もの金が動く映画なんて滅多に出られるもんじゃねぇし。ラッキーだと思おうぜ」
だが健一がそう言った途端、カイはその大きな目を薄く細めて健一を睨んだ。
「オレもせめて突っ込む方やったら、そう割り切れたんかもな」
どうやら彼はその受け側という立場がどうにも不服らしい。だが仕方あるまい。そういう役柄を監督たっての指名で戴いてしまったのだ。
こだわるなぁ、と呆れたように健一が大きく肩をすくませるとカイは眉間の皺を更に深くした。
「当たり前やん!!オレかて男やねんからな!! あ!!!!」
突然叫んだかと思ったら部屋の端まで逃げ込み、両手で自身の肩を抱き寄せた。
若干青い顔をしてふるふると震えているように見えるのは気のせいだろうかと健一は咄嗟に思った。
「もしかして健ちゃん、そっちの気あり!?勘弁な」
ちょっと心辺りのある健一が目を軽く逸らしつつ「んな訳ねぇじゃん…」と小声で呟いたのは仕方ない事かも知れない。
彼とて哀しき被害者なのだ。
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