†FreeButterfly†
□〜第ニ章〜
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「んじゃ、始めるぞ」
リビングのローテーブルを挟んで二人は座っていた。もちろん台本を読み合わせる為だ。寝間着から部屋着に着替え、台本を手に持っている状態。
健一に言われたページを開き、カイは真剣にそこに書かれてある軽い情景や台詞を読んでいる。その様子にふと笑顔を零しながら健一も台本に視線を落とした。
「『ここは、真っ暗や。あぁ夢なんか』」
「おぉいそこの関西弁!!!!あと棒読みにも程があるだろ!!!」
そんな風に突っ込まれカイはムスッと膨れた。
「せやから言うてるやん。オレはミュージシャンなの。アーティストなの」
目を薄く開いて健一を睨むカイに、本当にコイツ見た目だけで選ばれたななどと失礼な事を思いつつマネージャーに渡されていた物を思い出した。
近くに置いてあった自身の鞄から一枚の写真を取り出すとカイの方へ投げて寄越す。手に取ってカイは少し驚いた。
だってその写真はとても古そうで、写っている人物はとても儚げで傍に置いてある人形はとても精巧で今にも動き出しそうなのだ。
「それ、俺達が出る映画のモデルになった人なんだってさ」
写真の中の人物をじっと見つめる。穏やかに微笑むその姿は優美で、女性のようにも見える。壁に凭れ掛かっている姿見の中に居る自身と比べて見る。
いつでも強気で強引な性格を良く現しているかのようにキリと上がった眉と強い光を称えた目。監督はこの写真を元にキャストを選んだらしいと言う健一の説明にカイはまたググッと眉間に皺を作った。
「どっこも似てないやん。オレ、こいつになんのか」
「畑違いでわかんねぇ事だらけだろうけどさ。その人達の人生を俺達が歩き直すんだぜ?音楽とは違うけど、芝居で表現すんのも悪くないぜ」
そういう健一の目はまるで子供のように輝いていて。カイは何となくそんな健一に照れ臭いような、嬉しいような不思議な感覚を覚えた。
他人の人生を歩き直す。そういう言い方をすると、芝居というのも何だか楽しそうな気すらする。不思議な奴だ。カイは健一にそういう印象を持った。
「まぁ、受けた限りは、頑張ってもええかな」
頬をほんのりと染めて目を背けながらそう言うカイに健一は苦笑しながら、「じゃあ続きだ」と先を促した。
「えっと・・・『夢を見ながら夢だと理解するのは、なかなかに興味深い事だ』」
「『こんばんわ』」
カイは思わず台本から目を離し、健一を見入った。だってその声は、
―――今の、健ちゃんが言うたんやんな?―――
その声は、余りにも深く凛々しくて澄んだ声で。今まで聞いていたそれとは全く異なる響きだったのだ。
凄い凄い!!!まるで別人みたい!!!!そう言ってはしゃぐカイに照れた健一が芝居人間なんだ当たり前だと更に先を促す。褒められるのに弱いらしい。
「はいはい。『こんばんわ。これは貴方の夢ですか。それとも私の夢なのでしょうか』」
「『二人の夢。これは二人の夢なのです』」
突然パタリ、と音がした。健一が見遣るとそこには床に寝そべったカイの姿があった。まさか・・・・・。
「なぁ健ちゃん。喉渇いた。夕べの紅茶美味しかったからまた飲みたいな。それにお腹もすいたわ。朝ご飯食べてからにせーへん?」
「お前。今間違いなく飽きてるだろ」
コクン。
「何ちょっとはにかみながら頷いてんだよお前―――!!!!!まだ5行!!!5行しか進んでねぇ!!!この台本何ページあると思ってんだコノヤロウ!!!」