†FreeButterfly†

□〜第三章〜
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「健ちゃん!ちょっと待って落ち着いて!!」

「落ち着いてられっかよ!!相手役の顔殴られて黙ってられる訳ねぇだろ!!」

まるで猛獣のように殺気立った目でカイを睨みつける。カイは自身があたかもライオンの檻に入ったかのような錯覚に捕らわれ、空を仰いだ。

「相手役どうこうは分からんけど、落ち着いて考えてみようや、な?」

まだギラギラした目で、だけど幾分か落ち着いてきたのか健一はそっとカイの顔から指を離すと「落ち着いてるよ」と吐き捨てるように呟いた。

「あんな。男同士の喧嘩にこれまた男が出てくるっておかしないか?」

・・・・・・・・・・・・・・・。冷静になった頭で考えてみると確かに。
そう思った健一は若干熱くなり過ぎた自分を恥ずかしく思いながら肯定してみせる。
どうやら殺人の罪は免れたようなのでとりあえずカイは深く息を吐き出した。――何やねんこのでっかい喧嘩っ早いワンコは。

健一をソファーに落ち着けさせたカイは持っていた雑誌を膝の上に置いてやった。案の定意味が分からずきょとんと目を瞬かせている健一にカイはもう一度その雑誌を手に取り問題のページを開いて再度膝の上に置いてやった。

「これ見て。最新の週刊誌やねんけど。むちゃくちゃ書かれてんねん」

「どれどれ・・・『ミスキャスト!売れない役者と売れないアーティストでBL。出来すぎてて受ける訳がない』・・・ひでぇ記事」

健一は苦笑する。この手の雑誌は小さい事を大きくし、他愛もない事を泥沼にするのが仕事みたいなものだ。書かれる側からすれば迷惑以外の何物でもないが、読者もその辺りは大方熟知しており面白半分で読んでいる者が大半だ。
むしろこのような雑誌に取り沙汰される事はある意味ステータスのようなもの。それだけ一般人の関心を集められると認識されているという事でもあるからだ。
その辺を理解していないのであろう、カイは憮然と唇をとがらせてご機嫌斜めの様子。すっかり落ち着きを取り戻した健一はカイの頭を数回撫でて落ち着かせてやった。

「・・・オレ、それ読んでスタジオ休むことにしてん」

「やる気になったのか!!」

これは喜ばしい。理由がどうあれやっと真剣に台本と向き合う気概を見せてくれると言うのだ。健一は素直に喜び満足そうに頷いている、が。

「続き。読んでみ」

というカイの言葉にまだ何かあるのか?と思いつつ続きの文章を読んでいった。

「『高橋健一(25)、劇団DOOLSの二流役者』おぉい失礼だなこのやろう。『カイ(年齢不詳)』え、何お前不詳なの?でも本当に不詳だよな。幾つだよお前。『ブルーローズのヴォーカリスト。見た目は悪くない二人だが、どう考えてもこの二人の間で愛が成立するとは思えない。誰でも良かったあげくトカゲの尻尾切りのごとく、赤沢監督に捨てられない事を願うばかりだ』」

なるほど。確かにこれはひどい。カイはほらなーほらなーひどくなーい?と巷のコギャルよろしく興奮気味に叫んでいる。
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