ガンダムSEED‡アスキラ小説‡

□誘拐宣言
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ぽかぽかした春の昼下がり。


オーブ官邸の裏手から見える、すこし離れたところの小高い丘の中腹に、
小さなお花見場所がある。
といっても、といってもそこはあまり人には知られていないのだろう。
その場所を知ってから何度か訪れているが、自分以外の人を見かけたことがない。

というのも、そこまで行くには立ち入り禁止のフェンスを越え、
少し茂みに入って、急な崖のような段差を降りないといけない。

人通りのある場所からは、桜がここにあるのも見えない。

入ってこようとする人もそういないのだろう。

この場所に桜があることを知っている人がいるのかどうかも怪しいものだ。


そんな場所をキラが見つけたのは、
先日、光の家の子供たちとピクニックに来た時に、
見失ったトリィを探して、偶然見つけた場所だった。

確認するだけ、と立ち入り禁止のフェンスを越えてしばらく行くと、
どこからか、桜の花ビラが一枚、目の前をかすめていった。
桜があるのかと、あたりを探してみたら、こんな場所に見つけたというわけだ。

そこは、AAの士官部屋より少し広いくらいだろうか。
ぽっかり空いていた空間は、日当たりがよく、眼下には、オーブの活気ある街並みとひと際目立つオーブ官邸が臨めた。

桜の木は2本で、つがいのように立っている。
見つけたころ3分咲き程度であったそれは、2本ともすでに満開を迎えていた。
2本の間に、仰向けになれば空は桜に覆われる。じきに散り始めるだろう。

ここは最近のキラのお気に入りの場所だった。

しかし今、キラは大の字で寝転がる気になれず、膝を抱えて座り込んでいた。


桜の花びらが雪のように舞う美しいこの季節は
キラの大好きな季節だった。

しかし、キラにとって、桜の思い出はきれいで楽しいものばかりではない。

むしろ、それらよりも必ず思い出されるのは、
彼からトリィをもらった、あの別れの日だ。

あの光景を、何度でも鮮明に思い出せるのは、
幼かった自分にとってそれほどショックで、忘れられない大切な思い出だったからだろう。

あの頃、彼が自分の知らない場所へ行ってしまうことが
どうしても信じられなくて
最後まで
信じたくなくて

涙はこらえて絶対に出さなかった。

認めたくなかったから
さよならすらも言えなか

当時を思い出せば、ただ幼く純粋だった自分。

それからは、どこへ行っても、大好きな彼の笑顔は見られなかった。

話したかった出来事は、どんどん積っていった。

大嫌いだった彼のお小言もため息すらも聞けなかった。

友達が、ずっと一緒にいてくれたのに、
ふとした時に、探したのはやっぱり彼の姿だった。

あんまり寂しくて、
ある休みの日に彼がいた家を訪ねてみたけど、

当然誰も居なくて
こっそり、よく遊んだ庭に忍び込んで泣いた。

そうして

自然と

想いも、出来事も、
ただの記憶になることを、受け入れざるを得なかった。


当時、メールを送れていたのは本当に別れてすぐの頃だけで、
学校の忙しさと、開戦の兆候が色濃くなってきてからは、
情報・通信規制がかかってたった一つの通信手段さえ絶たれた。

このころからだったと思う。

自分が変わり始めたのは。

ただ受け入れるだけの自分が嫌で、徐々に諦めが悪くなった。

月の幼年学校を卒業して、へリオポリスへ来た頃だっただろうか。

独学でハッキングに関する知識を集め始めた。


プライベート時間は課題を片付けると、毎日のようにPCに向かっていたように思う。

抜け道を探したり、
何らかの手段でアスランと連絡できないか試していたのだが、
ハッキングを習得してそれなりに出来るようになった時には、
すでにアスランの連絡先も変わっていた。

それからは、彼に会いに行く事を目標に、アカデミーで過ごしていた。
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