小説
□irritation
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「―――PP…PP…PP…PP…」
単調過ぎるアラーム音が鳴り響く中、ゆっくり覚醒し始める躰が無意識に枕元にある携帯を掴む。
モゾモゾとまだ覚束無い手で解除ボタンを押しながら、僅かに開いた瞼の隙間から携帯画面を垣間見た。
「――っヤ、ベェッ!!……ンッ…痛ッ…イ…テェ…」
時刻を確認するや否や躰を起こそうと腹筋に力を入れるが、コメカミに走る鈍痛と、胸に感じる圧迫感に視線を遣る。
胸の上に覆い被さる綺麗に筋肉の付いた腕を、怪訝そうに睨むと溜め息混じりの息を大きく吐き、静まり返った部屋に罵声が響き渡った。
「ったく…重てえんだよっ!!」
(パシッ)と乾いた音と共に跳ね除けられた腕は無情にも畳の上に打ち付けられる。
「…ンっ…痛…てぇ…」
掠れた声と同時に布団の中で身動ぐ甘ったるい匂いが漂う男は、先程跳ね除けた腕を布団の上で胡座をかいていた土方の腰に巻き付いていた。
「朝からウゼェことしてんじゃねえっ!!」
土方の非番の朝の恒例行事は一年近く月日が立っても懲りもせずに繰り返されていた。
半ば強引に絡まる腕を振りほどきながら立ち上がると、解けた腰紐がするりと布団に落ちる。
(――はぁ…毎度毎度、人が寝てる間に好き勝手しやがって…)
アルコールが入るとちょっとのことじゃ目を醒まさない土方を良いことに、アチコチ撫で回したに違いないと内心思いながらも、すんなり動いた躰と下腹部の奥に感じる重苦しさに、行為そのモノはしていないことは一目瞭然だった。
(――この前ヤったのって…前の前の非番の前夜だから…もう3週間か…よく我慢出来たな…アイツ…)
そんなことを脳裏に巡らせながら、辛うじて腕に残る着流しを脱ぎ捨てシャツを羽織り手早くズボンに足を通したところで煙草をくわえ火を着けた。
「――今日は非番だろ…なんでそんな格好してんだよ!!」
耳の直ぐ後ろで響いた声は、喋りながら首筋に触れその振動と洩れる息に背筋に甘い痺れをもたらす。
「ぁ…っ…」
自己陶酔に思考を奪われて気配に気付かず、予測しなかった行動に油断していた躰は素直に反応し、鼻にかかった吐息が洩れた拍子にくわえていた煙草が唇から滑り落ちた。
「――アヂッ!!」
はだけたままの胸元に煙草の火が僅かに掠め咄嗟に上げた声に腕を掴まれたかと思うと、躰を反転させられ前身衣を割り開き胸元に銀髪が近付く。
「何、やってんだ…何処に当たった?…ここか?!――あ〜ぁ…赤くなってるじゃなねえか…」
サワサワと腹部に滑る指先を目で追いながら、ふと視界に入った胸の突起が触れてもいないのにプックリと形付いていく様に込み上げる羞恥を堪えきれず、銀髮頭をペシッと叩き踵を返すと落ちた煙草を拾い慌てて肌けたシャツを閉じた。
「……か、掠めただけだ…何ともねえよ…」
「――それより……畳焦げちまったじゃねえか。…ったく…」
シャツのボタンを掛けながら、出来るだけ冷静に言葉を紡ぎ心拍数の上がった躰を落ち着かせる。
(――触んじゃねえよ…ったく…これじゃまるで…俺がサカってるみてえじゃねえか……だ、大丈夫…気付かれてねえよな?!…このままやり過ごせばなんともねえよ…平気だ…)
思いの外敏感に反応してしまった躰に羞恥も追い討ちをかけ、下腹部にまで疼きと熱をジワジワと伝える。
背後に犇々と感じる眼差しから逃れたい一心で、襖に手を掛けた瞬間、もう一方の手首を捕まれてしまった。
「俺の質問にまだ答えてねえだろ。」
引き戻される躰は胸板に背中を預ける形で吸い寄せられ、両腕に包み込まれガッチリと固定される。
「クッ…は…離せっ……銀っ…時…」
鎮めようとしていた心拍数は、一気に高まり早鐘を打ち鳴らし、躰中の血液がざわめき熱を帯び始める。
「だ・か・らぁ…非番なのに何で着替えてるって聞いてんだろォ…しかも思いっきり仕事仕様だしィ!!」
肩に顎を乗せボソボソと呟く声音は不機嫌で刺々しかったが、其れには触れずに現状を伝えた。
「―――急な仕事だ…夕べ攘夷を名乗る輩による茶斗蘭星大使館立て籠りが起こった。皆、夜を徹して交代で監視に付いてる。」
「――つか…夕べちゃんと云ったろうがっ!!」
状況を打開する為に声を荒らげながら、回された腕を外そうと銀時の腕の中で身動ぐ。
「オイオイ……十四郎く〜ん…夕べの醜態全然覚えてないの…?!」
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