蝶の宮殿

□大切な…
1ページ/3ページ



お兄ちゃん。
蒼衣には…ちょっと不思議な、一つ違いの兄がいる。
苗字が違うけど…
実の兄貴。
理由は蒼衣が小さい頃、親戚筋で子供のいなかった篁家へ養女に出された…

――母が亡くなったから…

篁の家へ行くその日。
今でも覚えているのは、その日ずっと兄が傍にいて、遊んでくれたこと。


積み木を積んで、
「こっちはぼくのうち、
こっちはあおいのうち。
きょうからちがうんだよ」
小さかった私にわからせようとしてた。
ひとつしか違わないのに。

私は何だかひどく恐ろしいことを言われた気がして

「べつべつ…やだ…。
にいたんといっしょ」

そう言って泣き続けた。

泣いてる私に

「あおいには、おにいちゃんがいるよ。
はやくおっきくなって、おにいちゃんがまもるから」

そういって手を握ってくれた…ぎゅっと。


じゃぁ…蒼衣は…

あの時兄に何かしたくて…普段は絶対にひとりでは行かないのに家の外へ出た。
ひとりで花を摘みに。

『ちょうちょはね、
お花がスキなんだ』
にいたん、そういってた。
“にいたん……
ちょちょスキ
だから…
あおいたん、おはな…”

花を探すのに夢中で、小さい子供にとってそこが危ないという意識はなく、外へ出た。
家の中に、花はなかったから。
そして玄関、門を出て、すぐ近所の家のきれいな花が目に留まった。

「おはな、きれいね」

花を摘んで帰ったら蝶々は来るはず、そう思って一生懸命だった。
花を摘んでいると、後ろの家の方から、私を呼ぶ声がした。

探していたのは兄だった。

「にいたん、
これ、おはなつんだぁ」

早く見せたくて、一歩前に出たその時…

「あおいっ、こっちきちゃだめだっ!」

やってくる車なんて考えてなかった。こちらへ向かってくる車――おおきなものを見て、怖くて動けなくて……立ちすくんだ。

そして
ものすごい
急ブレーキの音……


.
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ