* 短編。読みきりモノ。 *

□蘭の雫
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蘭の雫―youTubeー


そのひとは蘭のような艶やかさを漂わせ、モスグリーンのジャガーから降りてきた。

「いらっしゃいませ。」
「こんにちわ、素敵なお店ね。」
「ありがとうございます。」

彼女は店内にある花をゆっくりと見渡すと、納得したように顔を僕に向けた。

「華やかで可愛らしい女性に贈る花束を作ってくださる?」
「はい。ではご予算は?」
「ないわ。あなたの思うように作って。」
「・・かしこまりました。」

僕は数ある花の中から、その人へのイメージに合いそうな花を選びながら手の中で形作り束ねていった。

「花束の大きさはこれぐらいでいいですか?」
「ええ、充分よ。素敵なのができそうね。」

彼女はゆったりと椅子に掛けながら、僕の作業を眺めていた。

考えるような仕草で、顎に添えられた彼女の白く細い指に光る大きな深紅のルビー。
そして彼女の動きや仕草のひとつひとつには、誰もが惹きつけられるような優美さとしなやかさを持っていた。

多分彼女は、僕が想像するいわゆる上流階級の中で生きている人。

僕はそんな印象を彼女に持った。




「お待たせいたしました。こんな感じでどうですか?」
「素敵、きっと彼女に似合うわ。ありがとう、とっても気に入ったわ、また来るわね。」


花束を抱えて店を出て行った彼女は、流れるような身のこなしで後部座席へ丁寧に花束を置きドラバーズシートに身を沈めると、店の前に立っていた僕に視線を合わせた。

僕が慌ててぺこりとお辞儀をすると、彼女はふっと微笑を残し静かに車を走らせて街の中へ消えていった。


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