短編
□願いたくない願いを願う。
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あと何回好きだと言えるだろうか。
あと何回お前を抱き締めてやれるだろうか。
あと何回口づけを交わせるだろうか。
あと何回自分の愛をお前に伝えられるだろうか。
死期が近いからか最近そんなことを考えたりしてしまう。
お前に会うまでは死について何にも感じず、考えもしなかった。
いつの間にかお前は弟と同じくらいに大切な存在になってしまった。
「死に行くの?」
「ねぇ、弟君のために死ぬんでしょ?」
「私のためには生きてくれないの?」
涙を目に溜めて裾を引っ張る名無しさんに俺は黙って頷く。
「弟君にはどうしても勝てないんだね。悔しいや」
「すまない……」
「ねぇ、私も連れていってよ。イタチのいない世界で生きていきたくない」
「お前には幸せになってほしい。俺じゃない誰かと幸せになれ」
とうとう泣きじゃくる彼女に最後になるであろう口付けをする。
「んっ……、イタチと一緒にいくよ……?」
そう彼女が泣きながら微笑み、 離れるのと同時に口許から赤い血が流れる。
よく見てみると胸にクナイが刺さっていて服を赤に染めていき地に膝まつく。
あぁ、何でだろう、生きてほしいと願ったのに
とても嬉しくてたまらない。
あぁ、そうか、本当は一緒に死んでくれと願っていたからか。
待っててくれ。
俺も今いくから。