短編

□きっと、もう手遅れだ
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『あんたなんて大嫌い!』
なんて言われたのはもう10年以上前の話だ。
あの時はまだ子供で況してや、気になる異性にどうやって接すればいいのか分からなかった時期だったからオレはやっぱりアイツの嫌がることをして此方に向かせることしかできなかった。

例えば襟を掴んでその中に蠍の死骸をを落としてみたり、口寄せの術で出した闘牛で追い掛け回したりと今思えば大嫌いと言われるには十分なことをしてきたなと久々に足を踏み入れた故郷に少し昔のことを思い出す。
アイツ……名無しさんは元気でいるだろうか。
アイツに会いたい。そして謝り、想いを伝えたい。


そう思い、アイツの家に向かって、インターホンを鳴らす。
すると中から以前と変わらない声が聞こえ、胸が高鳴った。

「はーい、どちら様でしょうか?」
「名無しさんか?」
「……どちら様で?」
「オレだ」
「あ、オレオレ詐欺なら、お引き取り願います」
「オレオレ詐欺じゃない。実はお前に話がある」
「私はないから、帰って」
「お前がなくともオレがあるんだよ」
「相変わらず俺様なのね、サソリ」

で、何と腕を組む。話を聞いてくれるみたいだ。

「実は……」
「お母さん、お鍋沸騰してるよ」
「あら、大変。サソリ、ちょっと待ってて」

話そうと口を開くと家の奥から子供の声が聞こえ、話を中断し、名無しさんは急いで奥へ走っていき、そして暫くたつとまた走って戻ってくる。

「ごめん、で何、話って」
「お前、子供いたのか?」
「えぇ。もう5歳になった子が1人」
「結婚もか?」
「当たり前よ!結婚5年たった今でもラブラブなんだから」
「……そっか、ならいい」
「え?ちょっとサソリ、話は?」
「話す気なくなちまったから帰るわ。あ、そうそうオレがここに来たことバラしたら殺して傀儡にしてやるからな」
「は?意味わからない。ちょ、サソリ!?」


別れを告げ、オレはすぐに走りだした。


ちっ、あんな幸せそうな顔しやがって
……今さら好きだなんて言えるかよ。
もし伝えたとしても、きっともう手遅れ。
アイツは今幸せなんだ。オレがアイツに想いを告げたところで何になる。
ならば、オレはこの想いを捨ててしまおう。そもそも、抜け忍犯罪者が恋だなんて馬鹿げてる。
もっと早く想いを告げていたら……なんて、後悔しても、もう戻らない。


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