短編小説
□とある商人の売上帳
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「永遠の命が欲しくないか?」
とある町の商人は、少年に言いました。
「永遠の命?」
少年は首を傾げました。
商人は、大きく両腕を広げて続けます。
「そうさ。何年も、何十年も何百年も生きられる命さ。…この薬を飲めば、それが手に入るんだ」
商人は懐から小さな小瓶を取り出しました。それは、空によく似た色でした。
少年の目が輝きます。
「欲しいかい?」と商人が尋ねると、少年は大きく頷きました。
すると商人はニンマリ笑って、小さな小瓶を差し出しました。
小瓶を受けとりながら、少年が値段を尋ねると、商人は首を横に振って言いました。
「お代はもう貰ったよ」
商人の言ってる意味が分からず少年は再び首を傾げました。
商人は小さく笑い、少年の頭を撫でると、どこかに行ってしまいました。
取り残された少年は、しばらく小瓶を見つめ、恐る恐る口を着けました。
―孤独な世界―
…少年が、自分の過ちに気がついたのは、それから何百年も経ってからでした。
誰もいない、孤独の世界に年を取らない少年はただ、涙を流し続けました。
あの時、商人の言っていた「お代」は、「己のくだらない欲」だと少年はずっと、ずっと気付きませんでした。
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