君と僕らのSchool Life

□折り、祈る
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いつもは遊んでばかりの剣道部だが、月に数回程たまーに気紛れで真面目に部活をする事がある。

今日はどうもその日らしい。道場からは竹刀がぶつかる音や裸足で床を踏み込む音が響いていた。




「…………」



そんな音を聞きながら、剣道部のマネージャーである一将は道場の隅に設けられた机に向かっていた。
普段こういう日は洗い物や掃除をして過ごす彼だが、今日は特にする事がないのか、一人で黙々と何か作業をしていた。


「………おー、なんだ。今日は珍しく部活してんのか。こりゃ、明日は雨だな」


なんて冗談混じり言いながら道場に入ってきたのは、彼らの顧問である、



「あ、かなっち先生……」

「前原先生、だっ!……ったく、お前らは何回教えりゃ気がすむんだ……」

「おー、かなっち!どうしたの?俺たちの真面目な声に引き寄せられちゃった?」

「練習するなら無駄口開かず真面目にやれよ、成川ー」

「うぃーす」


軽い口調で返事をする正義に要はもう一度「ったく…」とぼやいて、一将の方へと歩みよった。


「ずいぶん暇そうだな拝弟。今日は仕事がないのか」

「……確かに仕事はないですけど、暇じゃないです。かなっち先生じゃあるまいし……」

「相変わらず可愛げねぇな。ウチの娘の方が何百倍も―――」

「娘自慢なら職員室でやってくださいよ、先生」

「あぁ、そう……」



要はわざとらしく肩を竦めさせると、横目で一将の手に持つ紙をチラリと見た。


「……で、さっきから何してんだ?」

「病院の宿題っすよ」

「宿題?」

「……リハビリ」



少し言いづらそうに一将が小さな声で呟けば、要は「なるほど」と静かに頷いた。


「それで折り紙なのか」

「うん。細かい事をして、指先を動かせるように練習しろだって」

「ほぅ……一体何を折ってるんだ?」

「………………鶴」



そう言って一将は机の片隅にある完成した数羽の折り鶴を指差した。


「………ずいぶんヨレヨレの鶴たちだな。俺の方がまだキレイに折れるぞ」

「仕方がないじゃん……」



からかわれた事に対し不貞腐れる一将に、要は苦笑しながら「悪い、悪い」と謝った。



「…で、どれぐらいの数を折るつもりなんだ?」

「本当は千折るつもりだったけど、とりあえず百。んで、百羽鶴を作る」

「百羽鶴、なぁ………願掛けでもするのか?」

「願掛け?別にいらないでしょう」

「アホ。せっかく作るんだったら、願掛けぐらいしてみろよ。ヨレヨレ鶴とは言えど、多少は願いを叶えてくれるかもしれんぞ」

「えー…………んじゃあ―――」




照れ臭そうにボソボソっと蚊の鳴くような声で呟く一将の言葉に、要は一瞬目を丸くさせたが、すぐに小さく笑った。

そして、彼は手元にあった折り紙ケースから一枚、薄い桃色の折り紙を取り出すと、一将の方に見せつけた。



「……これ、貰うぞ」

「何ですか先生。俺の願い事のために貢献してくれるんですか?」

「ちげーよ。娘へのお土産だ」

「ケチ」

「何とでも言え。……それに、それはお前の願い事なんだから出来る限り自分の力だけで完成させろ」

「はーい」







折り、祈る


これからも、みんなとバカみたいに笑っていられますように……。

なんて、我が儘みたいな願いごとをこの鶴たちは叶えてくれるだろうか…。





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