番外編

□猫ネコねこ
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猫を拾った。
ふてぶてしい顔をした全身真っ黒の猫だ。


何で拾ったかと言うと、それは学校の帰り道。怪我をして踞っているのを偶然私が発見したから。

最初は、放っておこうと思ったけど、痛々しい傷を見て放っておけなくなり、気が付くと私は、この黒猫を抱え近所の動物病院に駆け込んでいた。

すぐに獣医さんに治療してもらい、私はホッと一息つく。黒猫も痛みが少し和らいだのか、診察台の上で丸くなっていた。


「…その黒猫、君が飼うのかい?」


獣医さんがカルテを書きながらそう私に訊ねてきた。

「……え?」


まさかそんな事を訊かれるとは思ってなかったので、私は目を丸くした。
別にこの黒猫を飼うつもりは全くなかった。かと言って、また捨てる気なのか?と訊かれると、それもそれで困る。


「えっ…えーと…」


私が答えに迷っていると、獣医さんは呆れた顔をして私にこう言った。


「…まぁ、飼う気がないのなら、こっちで処分しますが?」


「しょ、処分!!?」


処分と言うと、もしかして殺すってこと?せっかく助けたのに?
そんなの――


「か、飼います!私、この子飼いますから!」


そう考えていたら、口が勝手に動いた。自分でも驚いている。
勢い余って身を乗りだした私に、獣医さんはたじろぎながら「わ…分かりました。…では、ついでに健康診断もしておきますね」と言った。


* * * *


家に帰って、抱えていた黒猫を床に下ろしてやると、挙動不審に辺りをキョロキョロと見回す。

ま、無理もないか。


私は妙に疲れた体をソファーに預け、部屋を徘徊しまわる黒猫を目で追った。

黒猫はしばらく徘徊して、そこが落ち着くのか、床に置いていたクッションの上にポスンと座った。


(…あ、飼うなら名前考えなきゃ)


何が良いかな…。



ジーッと見ていたせいだろうか、黒猫がいぶかしげな目でこっちを見てきた。
…別にガンを飛ばしているわけじゃないのに…。



「…んー…クロ?いや、違うなぁ…」


とりあえず、思い付いた名前を上げてみるが、どれも納得がいかないというか、何というか…。そう言う感じの顔じゃないというか…。



「ねぇ、君の名前は何て言うの?」


そう訊いてみると、黒猫は「知るかよ」とでも言っているように顔を背けてしまった。
面白くないヤツめ。



「…う〜ん…」


そもそも、猫っぽい名前にしようと言う考え方が違うのかな。いっそのこと、人っぽい名前で考えてみるのが良いのかな。


…人っぽい名前……か。



「んーー………やす、と?」



ポンと頭に浮かんだ名前を口にすると、そっぽを向いていた黒猫がこっちを見て返事をするように小さく鳴いた。


「泰人!泰人かぁ、君の名前は〜」


嬉しくなって黒猫――泰人に近寄り頭を撫でた。

泰人は鬱陶しそうに私の手から逃げると、部屋の角に行ってしまった。


「なっ…さっきは抱っこさせてくれたじゃんか〜!」


彼の中では“さっきはさっき、今は今”という事らしい。
泰人はプイッと顔を背けると、そのまま丸くなり昼寝の体勢に入った。


「うぅ〜…。ちょっと、泰人さーん、無視しないでよー…」


……どうやら、私になついてくれるまで、まだまだ時間がかかるみたいだ。




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