番外編

□ある日の風景
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そりゃあ、人間も妖怪も生きてたら好き嫌いぐらいある。好き嫌いぐらいはあるが……


「月読様、お茶が入りました」

「おう、悪いな」

「あ、壬風ー、俺も茶が欲しい」

「貴様はそこらで泥水でも啜ってろ」


――――…流石にここまで毛嫌いされると嫌でも傷つく。








「……んだよ、ケチくさい冷徹女め…」

「帷さん、お茶ならアタシが淹れてあげよっか?」

「テメェが淹れる茶はただの砂糖水だろ、味音痴。いいよ、自分で淹れるから」

「じゃあ、アタシにもお茶ちょーだい」

「お前なぁ……」


はぁ、と疲れ切った溜め息をこぼし、帳はノロノロと立ち上がり、給水室の方へと歩き出す。そんな彼の後姿に向かって、不意に壬風が「おい、帷」と声をかけて呼び止めた。


「あー?何よ?」

「茶葉を使うのなら、先ほど私が使ったのではなく、その隣にある別のを使え」

「はぁ?別にいいっしょ、茶っぱなんて同じの使えば…。勿体ねぇし」

「ほざけ。貴様らごときが月読様と同じ茶を啜ろうなんて百世紀早いわ」

「あぁ、そう……」


げんなりとした面持ちで帳は小さく肩を落とし、相変わらずノロノロとした動きで急須に入った茶葉を入れ替えて新しく茶を淹れなおす。そしてまたノロノロと机の方に戻って行くと、可笑しそうに怪しく口元を歪めて笑う唯南と目があった。


「これもミッチーなりの愛情表現だよ、帷さん」

「やれやれ…ツンデレにも程があんじゃねぇの?……ほら、お茶。熱いから気をつけろよ」

「わーい!ありがと、帷さん」

「…んで、こっちが壬風。お前の分」


ほい、と帷が壬風に湯飲みを差し出せば、彼女はキョトンと呆けた表情でそれを見つめた。


「………私は別に頼んだ覚えはないぞ」

「んー?良いじゃん、ついでだよ。ついで」

「だが……」


何か納得がいかないのだろうか、壬風は差し出された湯飲みを前に躊躇ったような表情を見せる。

……できれば、熱いから早く受け取ってほしいのだが…。

なんて帷の心の呟きが聞こえたかのように、今まで大人しく茶を啜っていた月読が「ええやん、ええやん」と口を開いた。


「貰えるモンはその時に確実に貰っとけよ、壬風。後で損するのはお前さんやで?」

「…月読様がそう、おっしゃるのなら……」

「あーらら…何かその言い方、俺が淹れた茶は本当は気に食わないけど、大好きな月読様の前だから仕方なく飲みましょう、って感じに聞こえちゃうんですけど?」

「当然だろ。そういった意味を込めて言ったのだからな」


………かっわいくねぇーの。

しれっとした態度で帷から茶を受け取る壬風に、彼もケッと小さく喉鳴らして自分の席に戻ろうと踵を返す。…と、その時。ふと何か思い出したかのように月読がポンと手を叩いた。


「せや。そーいや茶菓子の羊羹あったよなぁ。帷、切ってくれ」

「うぇー……俺がッスか?」

「今この場で立ち上がってんのはお前だけやろ。ほら、ついでついで!」


そう言って子供のようにケラケラと笑う月読に帳は「へーいへい」と答え、羊羹を取りに行く。


「帷!俺、はじっこの部分な!」

「あ、アタシも!アタシも!」

「あー、ハイハイ。分かったから、ちょっと待ってなさいって。すぐ切ってくるから。………壬風はどうする?」

「………すでに両端がないんだ。どこを取ろうが一緒だろ」

「んじゃ、適当で」


微かに口元を緩めながら帳は取り出した羊羹の上に包丁の刃をゆっくりと滑らせた。










――――――
とりあえず、彼らを『本部組』とでも命名しておこうか。
皆なんだかんだで仲良しだといい。

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