番外編

□人に焦がれる
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両手いっぱいに資料を抱えながら帷が月華・本部の通路を歩いていると、ふと正面数メートル先に見覚えのある後ろ姿を見つけた。


「……あれ?泰人の旦那?」


思わずそう言葉をこぼせば、向こうも帳の存在に気がついたらしく、「帷か?」と少し驚いたように目を丸くさせながら彼の方を振り返った。


「やっぱり旦那だ!珍しいね、アンタが本部に顔出してるなんて。こっちから呼ばないとほとんど来ないのにさ。何か用でも?」

「あぁ、白亜の奴に少し用があったんだが……」

「あー、残念。白亜隊長は今お留守だよ」

「……みたいだな」


溜め息混じりに肩を落とした泰人はそのままゆっくりと踵を返した。


「ちょ、ちょ、ちょ!旦那ぁ、帰っちゃうの?」

「…いないなら日を改めるさ。別に急ぎの用でもないしな」

「そう冷たい事言いなさんなよ。せっかくこっちに来てるんだし、ゆっくり話でもしましょうや。白亜隊長だってすぐ戻るだろうし」

「何で俺がお前と話をしないといけないんだ。…俺は帰るぞ。ここに居るのはあまり好きじゃないんだ」

「えー、良いじゃん。ちょっとぐらいさぁ」

「お前と話す理由がわからん」

「だって俺、旦那の事けっこー好きだし」

「……は?」


帳の言葉を聞いて一気に表情を険しくさせる泰人。そんな彼の表情に帷自身も自分が言った台詞にハッと血相を変えて「違う、違う!!」と慌てて顔の前で両手を振った。


「そういう意味じゃない!俺、ノーマル!勘違いしないで!!」

「………」


明らか怪訝そうな目を向けてくる泰人に帷は「だからー!」と声を張り上げた。


「今のは確かに俺の言い方にも問題あったけど、意味が違うんだって。俺が言いたかったのは、似た者同士って意味で好きってこと」

「似た者同士…?俺とお前が?一緒にするな」

「……いやいや、性格の話じゃなくて…」


なかなか伝えたいことが伝わらず、難しい表情で小さく唸り声を上げる帷。
そして、ふと彼はおもむろに「ねぇ、旦那」と口を開いた。


「もしも…妖怪と人間、どちらか好きな方になれるとしたら、旦那はどっちを選ぶ?」

「なんだ、いきなり……」

「いいから。これも一つの世間話と思ってさ。……ねぇ、どっち?」


小さく首を傾げてみせながらそう尋ねてくる帷に、泰人は少し悩むように天井を仰いでみせたが、すぐに「さぁな」と首を横に振った。


「そんなモン、考えた事もないし、興味もない」

「あらら……ずいぶんと面白くない答えが返ってきたね…。俺ならそこは人間になりたいと答えるんだけどねぇ…」


やれやれ、と言わんばかりに肩をすくめる帷。すると泰人は「お前なぁ…」と溜め息混じりに呆れたような言葉を吐いた。


「……鬼が人に焦がれてどうする」

「鬼だから、だよ。旦那」

「なに?」

「俺たち鬼は妖怪たちの中では妖力を持ってない分はるかに弱い。妖怪たちからすれば鬼なんてちょっとばかし力の強い人間と思われてるだろうね。外見だって角を隠せば人間とそう変わりはないし……。そうやって、人間みたい、人間みたいって言われてたら、嫌でも人間になりたいって思うモンでしょ?」

「……だが、それでもお前は鬼だろ」


そうハッキリとした口調で泰人が言うと、帷は薄い笑みを浮かべて小さく頷いた。


「あぁ、そうだよ。俺は人間みたいな鬼、そして旦那は人間だった妖人…。ねぇ、俺らって似てると思わない?」


緩い笑みを浮かべてそう尋ねてくる帷に泰人は本日もう何度目かわからない溜め息をこぼして「一緒にするな……」とぼやいた。



――――…今の俺は、人でも妖怪でもない、ただの化け物なんだから…。




――――――
泰人と帷。
何気に好きな組み合わせ


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