番外編
□人ならず鬼ならず
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『―――……鬼の子じゃ!鬼の子が出たぞ!!』
響く罵声に遅れて飛んでくる石は鈍い音をたてて俺たちに当たる。…少し、痛い。
『止めろ!俺たちは鬼なんかじゃ――――』
『えぇい!額に角を生やして何を言う、この化け物めっ!!』
『おい、女と子どもを隠せ!喰われるぞっ!!』
『喰わねーよ!お前らと同じモン食うに決まってるじゃねーか!』
『黙れ鬼!さっさと村から出ていけ!!』
また響く罵声と石の嵐。
俺は足元で踞る壬風の手を引いて急いで逃げる。それでも嵐は一向に止まない。
『………とばりっ……とばり…』
今にも泣きそうな壬風の声。いや、きっともう泣いている。
『やっぱり……私たちは鬼なのか…?化け物なのか…?』
聞きたくもないその言葉に俺は無意識に唇を噛み締めていた。口内に嫌な味が広がる。
『……なぁ……とば……』
『違うっ、俺は……俺たちは―――』
「――――こら。寝るな、帷」
不意に響いた凛とした声と頭に走った軽い衝撃に、帷は閉じていた瞳を静かに開けた。
ぼやけた視界に映るのはもうずいぶん見慣れたデスクと山積みの書類。自分の現状が理解できず、帷が已然、ぼんやりと呆けていると、不意に頭上から呆れた溜め息が聞こえた。
「………まったく、少し目を離せば居眠りなどと……仕事ぐらいしっかりと―――」
「―――……なぁ、壬風…」
壬風の言葉を遮るように帷が静かに口を開くと、彼女は怪訝そうに眉をひそめつつ「どうした?」と尋ねる。
「………俺は人になれたか」
寝惚けているのか、どこか曖昧な呂律でそう呟いた彼に壬風は一瞬、目を丸くさせたが、すぐに呆れたような溜め息をもう一度こぼす。
「……人にはなれてないな…」
「………なら、鬼なのか…?」
「………鬼でもない、な…。私もお前も、人と鬼の狭間の者だ……昔も、今も……」
「そっか………そうだよな、俺は化け物なんだから人にはなれない。でも、鬼にもなれない半端者……」
寝言のようにそうこぼし、彼は体を机に突っ伏して深く息を吐き出し、また目を閉じる。
「……こら、帷…」
壬風が帷の額を覆うバンダナを軽く小突くが、再び細くなった彼の呼吸に彼女は観念したように口を閉ざす。
“――――…俺は化け物なんだから人にはなれない。でも、鬼にもなれない半端者……”
脳裏を過った先ほどの帷の言葉に、壬風は僅かに眉を伏せて「……馬鹿者が」と小さな声で彼に囁く。
「お前はお前だろう、帷……。化け物なんかではない……」
同じ化け物が言うんだから、間違いない。
――――――
本編では触れないのでここにメモ。
帷と壬風は元々繋がりがあるよ設定。ちなみに二人とも鬼と人のハーフ。当作品では今後、『オニビト』と表現します。