番外編

□再会なんて願っていなかった
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泣いていた。

ずいぶんと幼い人間の子どもが俺の目の前で、大声を張り上げ泣いていた。
その子どもの前には酷く嫌な色をした赤が広がり、噎せ返りそうな臭いが鼻を突く。


「――――」


不意に、子どもが何かを呟いた。嗚咽混じりで言葉の内容は聞き取れなかったが、確かに何かを呟いた。
その拍子に、溢れた雫が子どもの顔を濡らし、俺はただそれをジッと見ていた。


――――…もし、もっと早くに駆け付けていれば、この子どもは…………いや、そんなどうしようも無い仮定の話は時間の無駄か…。

一歩、足を前に出せば、音に気付いた子どもが勢いよく俺の方を振り向き、覚束無い足取りで近寄って俺の服を掴んだ。


「…なんで!?…ねぇ!なんで殺されたの?!…なんでお父さんとお母さん…友達みんな殺されたの?ねぇ!!」


それを俺に聞かれても困る。
そう言い返せればどんなに気が楽な事か…。

ずるずると滑るように崩れていく子どもに俺は小さく溜め息をこぼし、子どもの頭に軽く手を置いてみた。
“頭を撫でる”という行為を試してみただけなのだが、どうも効果はあまりないらしい。子どもは泣きじゃくっていたはずの表情を不思議そうにさせて俺を見上げていた。


「…すまない」


そう呟いて俺は少し息をつく。
そして、子どもの頭に置いた自分の手から短く放電の音が響き、それに一瞬遅れて子どもの体が横に倒れる。その体が床に倒れこむまでの間、子どもの虚ろな目はジッと俺を見据えていた。


「……二度と醒める事のない夢の中に浸っていろ。こんな事、思い出す必要はない…」


そして願わくは、もう二度と俺の前に姿を現さないでくれ。






―――――
一章、第一話の泰人視点


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