番外編

□妖人と少女と式
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「…展開、“式”」


淡々とした泰人の言霊に答えるように、彼の手元の札が舞うように宙へ浮かぶ。そして、ぐにゃり、と大きく歪んだそれはゆっくりと生き物の形を成していく。
それを見計らったように泰人が手を差し出せば、白い鷹へと姿を変えた札は静かにそこへ止まった。


「すごい、それが泰人さんの式神ですか?」

「……まぁ、人工のタイプだがな」


短くそう答え、泰人は式の乗る手を少し上に掲げる。すると式は白い翼を広げ、二人の回りをゆっくりと旋回し始めた。


「かわいー」


小さく表情を綻ばせながら杏奈が恐る恐ると手を差し出せば、式はゆっくりとそこへ止まる。
それに対して満足そうに口元を緩めた彼女は指先で
式の頭を撫でた。


「この子、名前何て言うんですか?」

「……は?名前?」


きょとん、と心底不可解そうに眉を潜める泰人に、杏奈も小さく首を傾げる。


「………いらんだろ、名前…」


どこか呆れたような表情で彼がそう言うと、すかさず「えーっ」と不満げな声を上げた。


「無いんですか?せっかく可愛いのに……」

「可愛いって、お前なぁ…」


溜め息混じりにそう言って泰人はさらに何か言おうと口を開きかけるが、少し考えて言葉を呑み込み、また溜め息を吐き出す。そして、彼は何も言わずにただ、指を一度弾く。
すると、杏奈の手にいた式が小さく体を振るわせ、元の札へと姿を戻した。それに彼女はどこか残念そうに「あ…」と声をこぼす。

泰人は静かに手を伸ばして杏奈の手から札を取り返すと、そのまま何の躊躇いもなく札を破いた。
どんどん細切れになる札を、杏奈は目を丸くさせて凝視する。


「……これは、消耗品も同然だ。いちいち情なぞ湧かせれるか」


酷く冷たい声色でそう呟いて、泰人は手元に向けていた視線をゆっくりと上げ、今にも泣き出しそうな表情を浮かべる杏奈を見て、ぎょっと目を丸くさせた。


「…………何だよ」


どこか苦い表情でポツリ、と泰人がそう訊ねるが杏奈は「……何でもないですよ…」とだけ呟き、不貞腐れたように顔を背ける。


――――…あぁ、やっぱり女は面倒くさいな。


小さく溜め息をこぼしながら泰人は首の後ろを掻いて静かに札を一枚取り出し、宙に放り投げた。


「………展開、“式”」







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