RAIN OF BLOOD

□伍 約束
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真っ暗な闇の中にぐったりと横たわる泰人の体。一見、死んでいるかのようにも見えるが、微かにその胸は上下に動いていた。

……まだ、生きてる。

『……よぉ、入れ物。“精神”はついに死んだか?』


不意に笑いを堪えたような声が闇の中に響いた。その声に反応するように泰人が閉じていた瞼をおもむろに開くと、嫌な笑みを浮かべて自分を見下ろすもう一人の自分――――妖魔の血のように赤い目と視線が交わった。


「……人を勝手に殺すな…」


少し掠れた声でそう泰人が答えると、妖魔はわざとらしく大袈裟に状態を仰け反らせて『そいつは残念』と肩を竦めた。


『なぁ、入れ物。テメェはこれ以上生きていたって苦しいだけなんだろう?…だったら、さっさと俺に体を渡して楽になれ。今までの礼だ、テメェの体はこの俺が大事に使ってやるさ…』

「……俺の体なんぞ使って…お前は何をする気だ…?」

『そんな事、死にかけの奴が知って何になる?』

「……それは、俺の勝手だ…」


息絶え絶えになりながらそう言う泰人に妖魔はふん、と小さく鼻を鳴らして口元を吊り上げて笑った。


『テメェも相変わらず変わってんな。……まぁ、いい。教えてやるよ。テメェの体を手に入れたら、俺はまず……月華を潰す。そうすりゃ妖世と人世を支配して俺のモノにするのも楽だしな…。どうだ?最高の考えだろう?』

「………俺からすれば、ただの愚論にしか聞こえんな…。いくらお前でも月華を潰すなんて不可能だ」

『安心しろ。これが実現化するころにはテメェは消えてなくなるんだ。どうなろうと関係ない事をわざわざ気に留める必要なんざねぇだろ』


怪しく口元を吊り上げて囁くような妖魔の言葉に、泰人は少しだけ目を細めて自嘲的な笑みを浮かべて「それもそうだな」と答えた。また妖魔の表情に狂気が増す。


『……なら、もう体はいらねぇんだな?』

「……勝手にしろ…」


素っ気無く泰人がそう言うと、妖魔は狂気に満ちた笑みでゆっくりと彼に手を伸ばし始める。それに応えるように泰人も力なく放り投げていた手を少しずつ持ち上げる。互いの指先が触れあいそうになった一瞬前、突然横から伸びてきた白くて細い腕が素早く泰人の腕を掴んだ。




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