RAIN OF BLOOD

□弐 夢か現実か
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閉じていた瞼を開くと、ぼやけた視界いっぱいに見慣れた天井が広がる。


「―――………夢?」


少しだけ掠れた声でそう呟いた少女―――六条 杏奈は、ゆっくりとベッドから起き上がり部屋を見回す。
何年間も過ごしたいつもの部屋。いつもと変わらない朝。いつもと変わらない日常。あの血の海も、あの暗闇はどこにもない。

それに安心したのか、杏奈は「ふぅ……」と、肺に溜まっていた息を深く吐いた。それと同時に一粒の汗が彼女の頬を伝う。


――――……また、あの夢だったなぁ…。


閉ざしたカーテンの隙間から差し込む朝日を眺めながら、彼女はふと夢の事を思い出す。


真っ赤な、真っ赤な血の海

見覚えのない死体

見覚えのない男

泣き続ける少女



――――……あれは…一体誰なんだろ…。なんで、私はこんな夢見るんだろう……。


ぼんやりと考えながら部屋を見回すと、ふと杏奈の目にある物がとまり、思わず背筋が凍りついた。


「う…そ…」


震える声でそう呟いて彼女はベッドの横に置かれた目覚まし時計を震える手で握りしめる。時計が指す時刻は8時。
そして、今日は平日。
彼女はごくごく普通の女子高生。つまり……


「遅刻だぁぁぁッ!!?」


こういう事だ。

杏奈は、急いで制服に着替えを済ませると、一気に部屋を飛び出して階段を転がるように降り、リビングに向かう。


「お母さん!!なんで起こしてくれないの!?」

「何言ってるの。お母さんはちゃんと起こしたわよ。だから、起きないアンタが悪い」


そう言いながら、弁当を突き付ける母。それを律儀に受け取りながらも杏奈は不服そうに顔をしかめる。


「母さんの言うとおり」


不意に、杏奈の隣でモソモソと食パンを食べながら父がそう言うと、彼女は以外そうに目を丸くさせる。


「…アレ?お父さん、仕事は?」

「今日はお休みさ」


羨ましいだろと父は悪戯っぽくニヤリと笑う。


「え、じゃあ学校まで…」


「「自分で行きなさい」」



* * * * *



「二人のケチーッ!!」


学校へと続く道を全力で走りながら、杏奈は力一杯叫んだ。

遅刻決定まであと、10分。家から学校まで掛かる時間約15分。できることなら遅刻は避けたい。


――――こうなったら、近道を使うしかない!!


彼女は走るスピードを少し緩めて、頭の中にぼんやりと家から学校までの道のりとその周辺の地図を浮かべる。


………多分、この道を行けば…良いと思うんだけど…。


半信半疑のまま杏奈は目の前にある薄暗い裏道にへと入って行った。






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