RAIN OF BLOOD
□肆 夢から醒めて
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(遅くなっちゃった…。お母さん、怒ってるかなぁ)
携帯のディスプレイを見ると、すでに9時を過ぎていた。さすがにこの時間の帰宅は非常にまずい。
(…怒られたら何て言おう…)
補習にしては遅すぎるし、友人と遊んでたなんて言えば、下手すればしばらく外出禁止…。だからといって、正直に『妖怪に…』と言ったら病院に連れて行かれかねない。
そんな事を考えるうちにいつの間にか家の前に着いていた。玄関の電気は消され、鍵もおそらく掛かってる。完璧に怒ってる…と杏奈は直感した。
(…どうしょう…)
一応、家の鍵は持っているので家に入れないという事はない。だが、どう言い訳したら良いのか考え、しばらく玄関の前に突っ立っていたが、結局何も思い付かず、怒られる覚悟で家のドアに鍵を差し込んだ。
「…………あれ?」
閉まっていると思っていたドアの鍵が開いていた。ドアを少し開け家の中を覗くと、真っ暗で人の気配がない。
(……誰も…いない?)
恐る恐るリビングに向かったが、やはり誰もいない。それどころか、普段ならとっくにされている夕食の準備すらされてなかった。
「お母さん?お父さん?」
二階に呼び掛けたが、二人からの返事は無く、代わりに返ってきたのは…。
「―――…お帰り。杏奈」
「っ!?」
着物の女がニンマリと笑いながらゆっくりとした足取りで二階から降りてきた。
「…なっ…」
その姿に杏奈はジリジリと後ずさる。すると女は何故か悲しそうに眉尻を下げた。
「何を怯えるのかえ?…昔はあんなに笑ってくれたのに…」
「…昔?…何の…事…?」
杏奈が訊ねると、女は悲し気に嘆いた。
「……あぁ、やはりわらわの事を忘れてしまったのか…。可哀想に…」
「わ…私、昔…貴女に会った事あるの…?」
「……あれほど、良い思い出を与えたのに。…のぉ、杏奈…」
女のひんやりと冷たい手が杏奈に触れた。その異常な手の冷たさに杏奈は小さく息を呑む。
「わらわの事を思い出しておくれ…」
泣きそうな声で女は言った。
「――…ッ」
慌てて杏奈は女の手を振り払い、二階へと逃げる。
「…杏奈…」
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