RAIN OF BLOOD
□肆 君と共に
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「…では、僕らは伊織さんを病院まで送りに行きますので、杏奈さんは申し訳ないですけど、泰人さんを待っててもらえますか?」
申し訳なさそうな玖旺に、杏奈は「大丈夫、大丈夫。任せて!」と笑う。
「お姉ちゃん、本当にありがとう…」
「うん。伊織ちゃん、また会えると良いね」
その言葉に一瞬、玖旺が表情を暗くしたのに杏奈は気付かなかった。
「…玖旺、行こ」
晄が玖旺の手を引くと、ハッとした彼の表情が晄に向けられた。
「え…ええ。そうですね。…では、杏奈さん。よろしくお願いします」
「うん。行ってらっしゃい」
杏奈は小さく手を振りながら三人を見送り、彼らの姿が見えなくなると、振っていた手を下ろす。その表情は少し寂しげに見えた。
杏奈はペタリとその場に座り込み膝を抱えてその上に顎を乗せる。
「…泰人さん、早く戻って来ないかなぁ…」
* * * *
伊織の体があるという病院へ向かう道のりの途中、突然、玖旺が歩みを止めた。
「…狐のお兄ちゃん、どうしたの?」
不思議そうな顔の伊織に、玖旺はニコリと笑う。
「ちょっと失礼」
そう言って玖旺は伊織の目の前に右手を持っていき、パチンと指を鳴らした。
すると、まるで糸が切れたかのように伊織の体が倒れ、それをすかさず晄がしっかりと抱き止める。
「…しばらく、寝ていてください…」
その時、大量の煙と共にスノーが牙を剥きながら姿を現した。
『お前、伊織に何をしたッ!!』
「…彼女には事故の後から今日までの記憶を忘れてもらいます」
『何!!』
「…これが…〈決まり〉ですから」
そう言う玖旺の表情は、もう笑っていない…。
『お前ら…ッ!!』
スノーが二人に飛び掛かろうとしたその時、晄が静かに口を開いた。
「私たちに危害を加えたら貴方もここにはいられなくなるよ」
『!!』
「彼女を守り続けたいと思うのなら、僕らに従ってください……」
その言葉にスノーは悔しそうに、そして悲しそうに低く唸った。
「………すいません…」
玖旺の謝罪にスノーは恨めしげな表情をしながら姿を消した。
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