RAIN OF BLOOD

□肆 狂気のち静寂
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* * * *




―――それから幾時かして。


薄暗い森の中、ゆらゆらと揺らめく人影が三つ。
一つは、白虎隊隊長である白亜の物で、残りの二つは額にバンダナを着けた少し大柄な体格をした男と、丸眼鏡をかけた中学生ぐらいの背丈の少女の物だ。


「あっ。見て見て帷さん。ほら、あそこ!雑鬼が泡吹いてるよ」


おもしろーい、と指差して笑ったのは丸眼鏡の少女、唯南だ。帷と呼ばれた男は「どこがおもしろいんだ?」と不思議そうに首を傾げた。


「……恐らく、ここら一帯を覆っているこの禍々しい妖気のせいだろうな。低級の妖には刺激が強すぎる」


そう言ったのは先陣を行く白亜だ。


「ねぇねぇ、白亜たいちょー。この邪気、祓わなくて良いの?これに誘き寄せられて大物の妖が集団で来たら………アイタッ!!」


その時、ゴチンと鈍い音を発てながら帷の拳が唯南の頭に見事にヒットした。


「…〜〜ッたぁ〜!!もー帷さん!女の子の頭に何にすんの?!」

「白亜隊長に失礼な口の聞き方するんじゃない。アホ」

「え〜ッ!!帷さんだっていつも月読様に『〜っす』とかってタメ口敬語じゃんか!大人のクセに!!」

「大人のクセにってなんだ!俺だって公私ぐらいわきまえてるっつーの!!」


ギャーギャーと後ろで騒ぐ二人組に白亜は呆れたような深い溜め息を吐き、振り返る。


「ここらの邪気は後から月読様が連れてくる術師が祓う。私たちの仕事は第二班、班長の生存確認だけだ」


白亜はそれだけ言うと、再び前を向いて早足に歩きだした。


「わぁ……白亜隊長、やっぱりクール。帷さんも見習った方がいいよ?」

「うっせー」


べっと子どものように舌を突き出して帷は白亜の後に続いた。



* * * *



薄暗い森にピッタリ合った雰囲気を放つ廃病院に彼らはたどり着いた。


「白亜隊長ー。ここなの?やっくんが残っている場所って」

「恐らくな」


そう答えながら白亜は病院の壁にそっと触れ、「ふむ」と小さく声をもらした。


「…どうやらこの病院全体に妖気遮断の結界が張られているみたいだな」


白亜がそう言うと、「はぁっ!?」と帷が驚愕の声を上げた。


「妖気遮断の結界張っているのに外にこれだけ漏れてるって、中はどんだけヤバいんすか!?」


うぇー、マジ無理。俺、死ぬってぇ……。
そう情けない声を上げる帷に同調するように白亜も小さく頷く。


「この状態で病院内に入るのは危険か。……仕方ない、後続隊たちが到着するまで待機だ。唯南、信号弾を」

「あいあいさー!」


明るい調子でそう言って唯南は肩から提げていたショルダーバッグからロケット花火のような物を取り出し、地面に突き立てる。


「そんじゃ、行ってらっしゃーい」


次の瞬間、信号弾は勢いよく上空まで飛び上がり、短い発砲音と共に空に赤い煙を立ち上らせた。


「うん、上出来!」


もくもくと上がるそれに、唯南は満足そうに頷いた。




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