RAIN OF BLOOD

□弐 神童と呼ばれた陰陽師
1ページ/4ページ





――――……夢を見た。

何年も、何十年も、何百年も前の出来事を夢で見た。

その時の俺は、まだニンゲンで、カゾクもいて、


そして…――



「――――…泰人…」

「……?…」


誰かの声が暗い世界に木霊する。聞き慣れた、しかしずいぶんと懐かしい声が。


「泰人、起きなさい…」

「…う…」


その声で自分が寝ていた事に気付いた。
うっすらと目を開けると、そこには白い巫女装束に身を包んだ女性の姿があった。


「……はは、うえ…」


掠れた声で泰人が呼ぶと、彼の母―――朝希は呆れたように小さく溜め息をこぼした。


「幸宗様がお呼びです」

「……父上が?」


…明日の事だろうか?

泰人は横にしていた体を起こすと、朝希に一度礼を言ってその場を後にした。



――――…折原家は代々、術師として有名の家柄だ。
祖父と父は陰陽師。祖母はイタコで、母は巫女。
そして彼―――泰人も明日の儀式を以て正式に陰陽師を名乗るのを許される。


彼は九つの時から陰陽道を習い始め、半年もしない内に五行術を完璧に習得し、占いもすぐ覚えた。
十二の時には、一族の中でも使える者はほとんどいないと言われる『千里眼』を習得した。
それゆえに幼いころ世間からは、こう呼ばれた。

神童と。

しかし、皆が皆呼ぶわけではない。彼の才能とやらを妬む者ももちろんいた。
泰人の実兄、義明がその一人だった。

義明は、彼とは違い、陰陽師としての素質が低い。
泰人より二年先に陰陽道を習い始めたが、使える術の数は泰人と比べれば遥かに下回っていた。
それは、十年以上たった今でも変わらない。
いつも、弟の泰人が兄の義明の上にいた。

そのせいか、義明は彼とは親しくしたがらない。それは泰人にも言えた事だが。

しかし、口にはしないが泰人は義明の方が普通なのではないかと考える。


人間が霊力を扱う。


そんな事が、意図も簡単に人間に出来るわけない。何年も掛けて出来るようになるからこそ、すごいのだ。

それに代わり、『神童』と呼ばれ、意図も簡単にソレをこなした自分自身は普通に考えれば、ただの『化け物』だ。
だが、そんな事を周りに言っても所詮、自慢話にしか聞こえないのだろう。

だから言わない。

幼い頃から泰人はそう決めていた。






次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ