RAIN OF BLOOD
□参 堕ちた神の子
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* * * *
「――………!」
それからどれくらい時間が経ったらのだろうか。
気が付くと、目の前に見慣れない女がいた。栗色の長い髪をした女だった。
女は、泰人が目を覚ましたのに気付くと小さく微笑んだ。
「気が付いた?」
見知らぬ女の姿に泰人は警戒するように鋭く睨み付ける。
「………誰だ、お前」
「私は“凪”」
「……なぎ?」
凪と名乗ったその女は、泰人に水の入った小さな碗を差し出した。
泰人がそれを受け取ろうと手を伸ばしかけ、ふとある事に気が付いた。
自分の手が、酷く赤い事に。
不思議そうな顔をする泰人に凪は囁くように小さく言った。
「……覚えてない?…あなたがやったのよ?」
そう言って、凪は泰人の隣にあるモノを指差す。
一瞬、それが何なのか理解できなかったが、少しして変わり果てた姿の幸宗と義明の姿だと気付いた。
二人は身体中ズタズタに引き裂かれ、所々には焼け爛れた跡もあり、思い出したかのように嫌な臭いが鼻を付いた。
「……俺が?アレを?」
「覚えてないの?」
―――…ドクン。
耳の奥の方で自分の心音がやけに大きく聞こえる。
――――…俺が、殺した……?アレを?…知らない…知らない……知らない…。
『止めろ!泰人!!』
恐怖で顔を歪めた幸宗の姿が脳裏を過った。
「……っ」
――――…知らない。俺は何も……知らない。
『――――泰人ッ!!!』
グラグラと脳が揺れ、意識が少しずつ闇に飲まれるような感覚がした。
「…っ…」
―――…俺は…俺は……。
「感情的になっちゃダメ。また暴走するわよ」
「っ!!」
不意に、遠退きかけた意識が戻った。
息が荒いのは左目に走る激痛のせいだろうか。
…何だ、これは…?
「俺は……どうなったんだ?」
泰人の問いに凪は静かに目を伏せて答えた。
「君は、一度死んだの」
「………死んだ?」
「……私はね、ある方の命令でここに来たの。この家にある危険なモノを回収するために」
「危険なモノ…」
「これよ」
そう言って凪は、泰人に術式の書かれた巻物を見せる。それは先ほど義明が広げていた巻物だった。
「…これはね、昔、大罪を犯した妖魔が封じられていたモノなの。でも、今は空っぽ。何でか分かる?」
「俺が契約したから…か?」
「そういう事。…で君はその妖魔の力を溜める器になっちゃったの」
「……器」
「人間は確か、妖人って言ったりするのよね」
「…一度死んだ、というのは?」
「君はもう人間じゃない。……妖怪でも人間でもない存在に生まれ変わった」
「…なるほど。それで死んだというワケか」
「分かってくれた?」
「…多少、な」
そう答えて泰人は小さく溜め息をついた。
静寂が二人を包んでいく。
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