RAIN OF BLOOD

□肆 赤い眼、赤い手
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―――……あれから一体どのくらい時間が経過したのだろうか…。
長時間、この暗闇の中に居過ぎたせいか時間の感覚が完全に狂ってしまった。


(…傷の痛みが少し引いたから、数日は経過しているんだろうな…)


泰人は暗闇の中に仰向けに寝そべりながら深い溜め息をついた。
その時、


『―――折原泰人、』


どこからか聞こえた槐の凛とした声が部屋中に反響した。


「……なんだ」

『貴方がここへ来てから二日と少しが経ちました。…気分はいかがですか』

「最悪、だな……」


少し自嘲するように言えば、そうですか…という短い返事が返ってきた。


『……今日、外では大雨のようです』

「そうか」

『……あの日にとてもよく似た天気です』


静かな声に、泰人の指先がピクリと反応を見せた。それを誤魔化すように口を閉ざす泰人に、彼女はさらに言葉を続ける。


『……一応まだ、あの日の事を覚えているのですね。関心します。貴方のような輩でも、自分の罪は覚えていることが―――』

「やめろ」


槐の言葉を遮るように泰人が鋭い声を発した。
闇を睨む彼の目は僅かに殺気を含んでいた。


『………なぜですか?』

「お前と話すのは気分が悪い。それだけだ」

『……ずいぶんと嫌われてしまいましたね。わかりました。今日はこれで失礼します。また24時間後にお話しましょう』


そこで声は途切れて、再び闇の中に静寂が訪れる。


「…………」


泰人は目を閉じると、もう一度深い溜め息をついた。


――……あの日にとてもよく似た天気ですよ。


ふと、脳裏に先ほど言われた言葉が甦り、泰人は僅かに顔をしかめた。


「こんな記憶、できることなら消してしまいたいぐらいだ……」


―――…それで、逃げたつもりか?


ふと、別の声が聞こえた。
今度の声は、闇の中にではなく直接頭に響いてきた。

突然の声に驚いた様子もなく、泰人は静かに目を開いた。


「…どういう意味だ」

―――…しらばっくれんなよ。どんなに逃げてもこの事実は消えないんだぜ?お前があの女を殺したと言う事実はなぁ……。

「……違う。俺はアイツを殺してない」


泰人の否定する言葉に、声はくつくつと喉を震わせるように笑う。


―――あぁ……そうだな。お前は誰も殺してはねぇ。……けどな、周りはお前が殺したと思ってんだよ。

「……だから、俺は――――」


声をあげようとしたその時、彼の目の前に赤い眼をした自分がどこからか姿を現した。
赤い眼の泰人はニヤリとひどく不気味な笑みを受かべると、赤い血で染まった人差し指でトンッと泰人を指差す。


―――いい加減認めろよ、折原泰人。あの女を殺したのはお前だろう…?

「黙れ……」

―――まだ覚えているんだろう?その手があの女の肉を抉る感覚をなぁ……。

「黙れッ!!」


泰人が鋭く吠えた瞬間、目の前にいた赤い眼の泰人は嫌な笑みを浮かべたまま、ぐにゃりと姿を歪ませ闇の中に消えた。
泰人は肩で呼吸を整えながらもう一人の自分が消えたほうを睨み付けていた。


―――…違う……俺は、俺は………。


忌々しそうに強く噛み締めた唇から赤い血が伝った。





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