コードギアス:短編
□嫉妬と愛情と
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「な、何だこれはっ!?」
部屋に帰ってきての第一声。ルルーシュは何のひねりもないセリフを叫ぶ。
つまらない反応だ。どうせなら、もっと取り乱して欲しいのだが。
「C.C.っ! 聞いているのかっ!?」
「ああ、聞いている」
床はピザの箱で埋め尽くされていた。部屋中もピザ特有の匂いで満たされている。ああ、なんと素晴らしきピザの楽園。無論、創造主はこの私だ。
「ふ……いいな、ピザ帝国」
「おいっ!」
「うーん。どれも甲乙つけがたい程に美味いな」
「無視するな!」
「うん、美味い」
気分は最高だ。こうやって、ベッドの上でのんびりピザを食べている時が一番幸せと感じる。
見渡す限りにピザ。山のように高く積もったピザ。海のように大きく広がったピザ。
ピザ、ピザ、ピザ。
これを楽園と言わずして何と言う。
「おい! ニヤニヤ笑ってないで質問に答えろ!」
とうとう堪忍袋の緒が切れたのか、ルルーシュはピザを爪先で掻き分け、ベッドまでやって来た。
「おい、C.C.これは――」
「うるさい」
「……っ」
無粋な乱入者を睨みつけてやると、少し戸惑ったような視線が返ってくる。顔には、どうして怒っているのか分からないと書いてあった。
……鈍感め、と言う言葉は口内で消えた。今はそんな事を言う気力もない。
「C.C.、何を怒っている?」
「……っ」
「な……」
肩へ伸ばされた手を振り払うと、ルルーシュから少しでも遠ざかるようベッドの隅に転がり逃げる。
だが、遅かった。
鼻につくフローラルな香りが、胸を焦がすように熱くする。ルルーシュから香る、香水の匂い。それは間違いなく女物である。
「……くそ」
ドロドロとした感情が心に流れ込み、不思議と体を重くする。
微かに暗くなったと感じる視界では、ルルーシュが少しだけ赤くなった右手と私を呆然としながら見ていた。傷付いたような表情が、暗く濁った私の心を痛くさせる。
「……ルルーシュ。すまないが、少しの間だけ一人にしてくれ」
「あ、ああ、分かった」
苦笑混じりに言えば、ルルーシュはいまだ困惑した声音で了解し、私に背を向けてバスルームへ向かった。恐らく風呂にでも入るつもりなのだろう。
バスルームに入った事を確認した後、ベッドから立ち上がり窓を全開にした。
ピザの匂いもろとも、知らない女の匂いを消したかった。
だけれども、記憶の中の匂いは消えない。
「……ちっ」
晴れない胸の内に、思わず舌打ちを零した。