短編

□目覚めよと呼ぶ声が聞こえ
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夢の中だということはわかっていた。
私は埃っぽい屋敷の中を歩いている。西洋建築のようである。
誰かに呼ばれていた。
その声はか細く、弱々しい。声の主がどこにいるのか全くわからない。
私はあてもなくその広く古い屋敷をさまよっていた。
見たところ、長い間使われていないようである。暖炉にも、テーブルや椅子にも、その他の高価そうな調度品には埃が厚く積もり、シャンデリアには蜘蛛の巣が張っている。
観音開きの玄関を入ってからずっと、そんな調子だった。
いくつもの部屋を通り抜け、居間らしき大きな部屋の脇にある、小部屋に入った。
どうやら書斎のようだ。本がところ狭しと並べられ、入りきらないものはサイドボードの上に積み上げられていた。丈夫そうな、それでいて繊細な彫刻が施された机の上には、文房具が散らばっている。
そして、誰かがこちらに背を向けて机とセットになっている美しい椅子に腰掛けていた。
「あなたが私を呼んでいるの?」
訪ねると、椅子が回転してこちらを向いた。
子供の骸骨だった。
なぜ子供だとわかるのかというと、子供服を着ているのと、少し小柄だったからである。
白骨が、汚れたガラスを通して入ってくる鈍い日の光を、柔らかく反射する。
屋敷の荒れ具合に似合わず、アイロンの当たった服を着ていた。焦げ茶のジャケットに、同系色のチェックの半ズボン。12、3歳の少年だ。この屋敷の主だと一目でわかった。
そして不思議と、恐怖は感じなかった。
「ちがうよ」
骨の少年はかたかたと雑音混じりに言った。
「あなたを呼んだのは僕の弟なんだ。二人でかくれんぼをしていたんだけど、弟がみつからない」
「弟さんは隠れ場所から出られないの」
骨はこくりと頷く。
「そのうちに僕もここから動けなくなってしまった。僕の代わりに弟を見つけてくれない?」
骨の体でかくれんぼとは、骨が折れることだろう。
わたしは快諾した。
どうせ夢の中のことなのだ。
それにこの屋敷にもまだまだ興味があった。
「いいよ。君の弟を探してきてあげる」
「ありがとう」
骨・兄は笑った。たぶん。
私は、書斎を辞して二階へ向かった。
一つ一つ部屋の中やクローゼットを調べてみたが、骨の弟は見つからなかった。
私は今までずっと呼びかけていた声に対して聞いた。
「あなたは今どこにいるの?」
幼い、まだ舌足らずな声は楽しそうに答える。
「秘密だよ。かくれんぼだもの」
さっきまでか細かったのに、うって変わって明るい。
地道に探すしかない。私は二階を後にした。
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