短編

□目覚めよと呼ぶ声が聞こえ
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一階に戻り、廊下の一番奥の扉を開く。
そこはガラス張りの温室だった。
枯れて朽ちかけた植物が、ところ狭しと植えられている。隅に作られた棚には、鉢が並べられていた。ガラスは割れ、風が吹き込んでいる。そして、屋敷内の他の場所と同様に埃が積もっていた。
私は、そっと温室内に踏み入った。
中は案外に広い。
小さく笑う声が聞こえた。どうやら骨の弟は近くにいるようだ。
中央に水盤が置かれている。他の場所の荒れ具合に反して、澄んだ水が揺れ、光を反射している。雨水でも吹き込んでいるのだろうか。
足下には煉瓦が敷かれていた。ぐらぐらと動いて安定しない。木のきしむ音がした。
煉瓦を手で外し、持ち上げてみる。
そこに、腐食した木の板があった。
さらに煉瓦を取り除く。木の板だと思っていたものは、鉄の取手のついた木製のふただった。
また、小鳥がさえずるような笑い声がした。
ふたを持ち上げようとするが、重くて上がらない。ともすれば、取手が腐った木から抜けてしまいそうだ。
どうしたものかと思案する。
辺りを見回せば、スコップが目に入った。
蓋と床の隙間に差し込み、力を入れる。ふたが少し持ち上がった。そこへ手を入れ、一気に蓋を上げる。
地下へ続く階段が現れた。階段の先はほの暗く、そのさらに奥は何も見えない。
私は手探りで階段を下りた。すぐに平たい床に行き着く。
どうやら広い部屋のようだ。
闇に目が慣れるまで、目を凝らして待つ。
入り口から差し込む弱々しい光で、ようやく薄ぼんやり、周囲の様子が見えてきた。
夢の内容が具体的になってきた。目が覚めてしまいそうだ。
私は急いで奥に向かう。
何もない部屋だった。
奥に箱が一つあるきりだ。
近寄って箱の中を覗く。

「見つけた」
箱の中には骨が膝を抱えて座っていた。
「見つかった」
幼い声が少し残念そうに言う。
「でもそろそろここからでたかったんだ。ありがとう」
私は微笑み返した。

――目が覚めた。
起きあがって見渡せば、いつもの寝台と私の居室だ。
伸びをして、立ち上がり部屋から出る。
長い回廊を抜けて、広間に出た。広間の向こうには壁がなく、装飾された柱がそびえ立つ。
その先には群青が広がっていた。
「今日は下界の天気も良さそうだ」
先に広間に来ていた仲間が言った。
それから二言三言交わし、柱の横に立つ。
「さてあの兄弟を本当に迎えに行かねば」
翼を広げて、群青の中に飛び込んだ。
快晴だ。

【終】
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