春の巻

□三章 川崎 六郷渡舟
3ページ/9ページ

向かってきていたのは、人だった。
土埃でよく見えないが、3人。


「おっと」

「あぶね」


村時雨と恭一は、ギリギリ横へ避けた。


「うわっ!!」


先頭を走っていた胡蝶も、横に避けた。

そして。


「動くな」

「え!?」


お春は若の背を掴み、固定した。
THE 盾。


「どいて〜!!」


避けきれない彼岸は、直進し続け。

ドゴオォッと、音がした。


「ぐげっ!!」


背の高い若の鳩尾に、背の低い彼岸の頭突きが決まった。


「第2波」


お春がそういった直後。


「うわあぁぁ!!」


追いかけていた慶徳も、避けきれなかった。


「ごへっ!!」

「むぐっ!!」

「うはっ!!」


3人とも、痛かっただろう。


「いってぇ……」


一番最初に声が出せたのは、若だった。
おそらく、一番タフなのだろう。

そして、目の前の慶徳と彼岸を見て。


「お前らは!!」


すぐにお春を抱え、飛び退いた。


「おやおや、君達か」


村時雨が草叢から出てきていった。


「村時雨……」


胡蝶が、こちらも草叢から出てきながら言った。
どうでもいいけど2人とも、葉っぱ付いてるぞ。


「あれ、3人しかいねーぞ?」


恭一も、草叢から出てきながら、貴徳いないことに気が付いた。
こいつも、葉っぱが付いてる。


「あいつは、1人だけ先に逃げた……」


胡蝶は忌々しげに言った。


「へ?」


慶徳がキレたとこを知らない恭一は、首をかしげた。


「って、そんなことはどうでもいいんだ!」


胡蝶はそう言うと、若を睨んだ。


「やっと追いついたぜ。その娘を返してもらう!」

「なっ!」


若はお春を抱きしめた。


「駄目!春ちゃんは俺の!!」


誰もあんたのものになったつもりは無い。


「んなこと認めるか!!」

「現実を直視しろ!!」


妄想と現実の区別がついてないのは、貴方の方です。


「っつーか、ちゃっかり抱きついてんじゃねーよ!!は・な・れ・ろ!!」

「んなこと言われる筋合じゃねーし」

「何だと〜!!」

「あー、はいはい。落ち着いて?」


村時雨が、仲裁に入った。

ボゴッっという音と共に、若が顎の下から殴られたのはあえて無視しよう。


「江戸からここまで来たか。私を敵にまわす度胸は認めよう。名は?」


村時雨は胡蝶に向かって言った。


「胡蝶。あっちの背の高いのは慶徳。ちびは彼岸。もうひとりの忍は貴徳」

「覚えておこう。しかし、今君達の相手をするのは、私達ではない」


村時雨がそう言った直後、周りの草叢から何十人もの浪人が出てきた。


「!!」


完全に囲まれた。

その内1人が、村時雨に向かって鉄扇を差し出した。


「ありがとう。鉄扇が戻ったからもう行こう。後はこの子達に、任せようか」


笑いながら、村時雨は去ろうとした。


「待てっ!」


追いかけようとしたが、しかし、浪人が行く手を阻んだ。


「くっ!!」


仕方なく、太刀に手をかける。

慶徳も薙刀を、彼岸も短刀を構えた。


「数が多すぎる」


貴徳が、何処からか現れた。


「テメェ、1人だけ逃げやがって」

「今はそのことを言ってる暇は無いよ。村時雨に雇われた、いや、買われた浪人か」


何時の時代も、裏の社会はある。
彼らはその裏社会の住人。
そして、裏社会の商品。


「阿片漬けの、殺人兵器ってか?40人も……村時雨も金持ちだなぁ?いいか」


胡蝶は太刀を抜いた。




「1人10人は始末しろよ」



.
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ