春の巻
□八章 平塚 縄手道
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崖崩れの後始末もあらかた終わり、藤沢から平塚へ行けるようになった。
先を急ぐ旅の上、何日も藤沢に足止めを食らっていた一行は、未だ意識を取り戻さない彼岸を師匠が背負うという方法で平塚を目指した。
脱力しているものを背負うのは、意識を持っている者を背負うよりも疲れるというのに、師匠は自ら彼岸を背負うと言ったのであった。
「どう思う?」
宿の裏で、胡蝶は貴徳と慶徳に向かって言った。
「多分、村時雨がやったんだ。何かを」
貴徳はきっぱりと言った。
彼岸が行ったはずの甘味屋と藤沢からここまでの関所で、貴徳は忍としての能力を使っていろいろ調べていた。
村時雨達は自分達同様、藤沢に足止めをされていた。
そして甘味屋では、彼岸と思われる少年と村時雨と思われる男性の目撃情報。
その上、師匠らしき人物の目撃情報と、壁に残った師匠の銃から放たれたはずの銃弾。
慶徳は首を傾げた。
「何で師匠は嘘を」
「さぁな。でも、やることは決まった」
胡蝶は冷たく笑った。
「間違いなく、奴等もここにいる。なら、今こそお春を助けるべきときだ」
やっと、追いついたのだった。
出掛けてくると言った3人を、師匠は止めなかった。
彼等もまだ若いのだから、遊びたいのは当然だ。
師匠は目の前の布団の上の彼岸を見た。
8年前、師匠は掛川近くのとある村で、彼岸に出会った。
再びあの悲劇を繰り返してはいけない。
終わらせなければいけなかった。
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