春の巻

□八章 平塚 縄手道
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「いねーなぁ……」


宿を1つ1つ回って聞きながら、しかし3人は未だに村時雨達を見付けられていなかった。


「この街にいるのは確実なんだけどなぁ」


貴徳は溜息を吐きながら言った。


「まぁ、あと少しだし、きっと何処かに……」


前を見ていた慶徳は、そこで言葉を切った。


「……いた」

「ん!?」


慶徳の指す方向を見ると、宿から3人の男と、女が1人出てきていた。
それは間違いなく。


「村時雨!!」


胡蝶は太刀を抜くと、後先考えずに斬りかかった。


「あーぁ、行っちゃった」


貴徳も手裏剣を用意しながら言った。


「俺達も行こう」


薙刀を構えながら、慶徳も走り出した。


「うあぁぁ!!」


振り下ろした太刀は、若の剣によって遮られる。


「またお前か」

「お春を返してもらう」

「させるかっ!!」


若は太刀を押し返し、続け様に斬りつける。
ギイィンッと刃同士が音をたてた。


「キャー!先生カッコいいー!!」


恭一が黄色い歓声をあげた。


「それじゃぁ後は頼んだよ」


そう言って去ろうとした村時雨の首元に、薙刀が当てられた。


「お待ちいただこうか」


慶徳はこの期に、村時雨も恭一も捕まえるつもりだった。
いつまたこの様に会えるかも分からない。

貴徳も、すぐに攻撃できるようにしている。


「馬鹿なことを」


村時雨は笑って、扇を振った。


「!!!!」


薙刀は重い。
しかし慶徳は近くの壁まで軽々と弾き飛ばされた。
背を強く打ちすぎて、上手に息ができない。

嘘だと思った。
いくらなんでも鉄製の薙刀が、紙と木で出来た扇に負けるなど。


「慶徳!!?」


貴徳は目の前の光景に驚き、手裏剣を投げた。
しかし。


「おっと」


手裏剣は全て、恭一の放った矢によって撃ち落とされてしまった。


「1人だけ除け者にするなよ」

「くっ……」


貴徳は懐から匕首を取り出した。
飛び道具では、数に限りがある。


「そんな小さな刀で何をするんだか」


恭一はそう言って、次々と矢を放ってきた。


「う"っ……!」


矢の速さは忍のそれを超え、3本に2本は貴徳に当たった。


「フフフ……弱いねぇ」


村時雨はそう言うと慶徳に近付き、その頭を扇で殴りつけた。


「っ!!!!」


慶徳は何故、自分が弾き飛ばされたのか分かった。
いや、知らなかったのだ。
村時雨が軽々と使うそれが、本来ならば片手で持てるはずがないほど重い鉄扇だと。

ゴッゴッと鈍い音が響く。
血液がこめかみを流れて行く。


「本当に……虫けら並だな」


恭一は、急所をわざと外されて呻く貴徳を見下しながら言った。


「村時雨様と恭一様に戦いを挑むなど、馬鹿だな」


胡蝶と戦っていた若は、呆れたかのように言った。


「何であいつら、あんなに強いのに用心棒なんて……」

「決まっている」


ギイィンッと音をたてて、胡蝶の太刀が宙を舞う。


「強すぎて、殺しちゃうからだよ」


太刀は少し離れた地に、ドスッと音をたてて突き刺さった。



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