春の巻
□八章 平塚 縄手道
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「ハァ……ハァ……」
太刀を構えながら、胡蝶は肩で息をしていた。
もう体力はほとんど残っていない。
慶徳は血だらけで倒れている。
貴徳は体中に矢が刺さっている。
駄目かもしれない、と一瞬思った。
負けたくない。
負けるわけにはいかない。
しかし、限界だった。
「あっけない。これで終いとは。もう少し骨のある者かと思っていたが、どうやら見込み違いだったようだな。殺す価値すらない」
村時雨は、そう言って去ろうとした。
恭一もそれに続く。
すっと、胡蝶の前に剣が構えられた。
「悪いが、お前だけはここで死んでもらう」
若だった。
「俺は、お前だけはどうも気に食わないんだ」
死ぬ。
本気でそう思った。
そのとき、すぐ横を何かが通り過ぎた。
普段は赤いそれは、今は白くて。
「!!」
驚いたのは、胡蝶だけではなく若もだった。
「彼岸!!」
胡蝶は己が目を疑った。
いつ目覚めたのか。
まずいと思った。
今の彼岸では、若に勝てるはずが無い。
しかし彼岸は若の手前で飛び上がり、その後ろにいた者に斬りかかった。
つまり、お春に、だ。
「!!」
お春はとっさに糸を出して防いだ。
「はっ!!」
見事な糸使いで、彼岸を弾き返す。
彼岸は数歩後退り、う"う"う"……と喉の奥から声を出して呻いた。
再び斬りかかろうとしたが、若が彼岸とお春の間に入ってそれを止めた。
「この女性を攻撃するのは、やめてもらおうか」
「……どけぇ!!」
彼岸は力任せに攻撃をした。
若も負けじと防ぐ。
が、無理な力で叩きつけられた2つの刀は徐々に弱くなっていった。
小さな双剣なら、なおさらだった。
ガゴッと耳障りな音をたて、双剣が砕けた。
「残念だったな」
若は横薙ぎに彼岸を斬りつけた。
しかし、若の剣は彼岸に届かなかった。
胡蝶が、2人の間に割って入ったのだ。
左手で彼岸を後方に押しのけ、右手の太刀で若の攻撃を防ぎ。
しかし、太刀はもう限界で、真ん中から折れてしまった。
そして、胡蝶の胸元は、バッサリと斬られ鮮血が噴出した。
「うわあああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
痛みよりも、恐怖に悲鳴を上げた。
そしてすぐに、胡蝶の意識は途切れた。
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