春の巻
□八章 平塚 縄手道
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貴徳は全てを見ていた。
胡蝶が倒れてすぐ、若はお春を抱きかかえた。
「離して」
お春は若の腕を拒絶したが、若は無理にでも連れて行くつもりらしい。
役人が騒ぎを聞きつけて、こちらに向かっている音が聞こえた。
「村時雨様、恭一様、もう行きましょう」
暴れるお春を抱え、若は走り出していた。
「ヤベェな、見付かったらお縄だ。ま、捕まえられるわけ無いけど」
恭一は冗談半分に言った。
「面倒は起こしたくはないし、行こうか。どうせ、虫けらは野垂れ死ぬさ」
村時雨はそう言って、若の後へ続いた。
「う"……」
痛む傷を抱えたまま無理矢理体を起こし、貴徳は向かってくる役人達を見ていた。
その中には、師匠の姿もあった。
助かったと思った。
胡蝶は胸から、慶徳は頭から血を流して倒れている。
彼岸は無傷そうだが、確かに様子がおかしく、再び気を失っていた。
でも、師匠が来たからにはきっと助かる。
そう思い、貴徳意識を手放した。
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