春の巻
□十一章 箱根 湖水
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箱根というと、人は何を思い浮かべるだろう。
「何日も無駄にしちまったから、焦ってもすぐには村時雨達に追いつけはしない」
胡蝶が提案するように言った。
「さらには怪我が完治していなかったりする。そこでだ、この辺で少し観光をして、心身ともに休みたいと思うが、どこか行きたいところはあるか?」
「はい」
彼岸が勢い良く手を上げた。
「強羅駅と湯本駅に行きたいです」
「何故?」
「強羅駅にあるといわれる『ようこそ第三新東京市へ』という看板及び、湯本駅の外観を見たいからです!」
「この時代に駅があるかこのオタクがあぁぁ!!!!」
「ぎゃあぁぁぁぁ!!!!」
胡蝶の回し蹴りが、見事にヒットした。
「こいつの意見はなしだ。次、慶徳」
「えっと……とりあえずまだみんな完治してないんだし、温泉にでも浸かりたい」
「……あのさ、慶徳。お前まだ若いんだから」
「え?」
「爺臭い」
「…………だったら胡蝶が決めろよ」
尤もな意見だ。
そんなこんなでどうしようかと考えている時だった。
「大変大変大変大変〜〜〜〜〜!!」
出掛けていたはずの貴徳が、そう叫びながら宿に戻ってきた。
窓から入って畳の上に着地した彼を、他3人は何事かと見た。
「大変だよー!!!」
まだ言うか。
「いったいどうしたんだ?うっかり八平みたいだぞ」
慶徳が言った。
「うっかり八平はこいつだろ」
胡蝶が彼岸を指差した。
「そんなことはどうでもいいんだよ」
うっかり八平の話は、どうでもよくされた。
「村時雨達を倒すチャンス到来なんだ!!」
「チャンス到来?」
慶徳は首を傾げた。
「忍としての能力を最大限使って得た情報だよ。奴等はまだこの宿場にいたんだ!これならいける!!」
「倒すチャンス……」
胡蝶は少し考えて。
「……是非、やろうぜ」
真っ黒く笑った。
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