夏の巻

□十二章 金谷 大井川遠岸
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夏が来た。
連日の暑さの続く中、胡蝶達はなかなか村時雨達に追い付けずにいた。


「本当に奴等、東海道を通ったのか?」


疑いは深くなり、最近では4人ともまさかという思いを隠せずにいた。


「一応目撃情報はあるんだけどね」


貴徳は言いながら首を傾げた。

村時雨達はそれなりに目立つ。
そのため、目撃情報が全く無いということは無い。
しかし何分日が経っていることと人伝という信憑性の欠ける情報であるということが、疑いに繋がっていた。


「こういうとき、何かいい方法があるとなぁ」


空を見上げれば、ムカつくほどギラギラ輝く太陽。

と、上ばかり見ていたら何かが肩に当たった。


「あ、すみません」


上を見ていたせいで、誰かとぶつかったらしい。
胡蝶はすぐに相手に向かって謝った。


「いえ、こちらこそすみません」


相手もすぐに謝ってくれて。
胡蝶と相手は、互いの顔を見て固まった。
ついでに言うなら、慶徳も貴徳も彼岸も固まった。

目の前に胡蝶がもう1人いたのだ。

胡蝶はこういうものを何と言うか知っていた。
以前、慶徳の読んでいた書物に出ていた。
本の名前はたしか『西洋妖怪図鑑』


「どっどっ……ドッペルゲンガーーー!!!!」


死期の近付いた者の前に現れる、自分と同じ姿をした者。
死から逃れる術は。


「殺す……!」


斬って、見なかったことにしてしまおう。
胡蝶は太刀を抜くと、ドッペルゲンガー(仮)に向かって斬りかかった。


「やめんかーーー!!!!」


間一髪、慶徳と貴徳と彼岸の3人がかりで押さえ付けて、胡蝶を止めた。


「離せっ!俺はまだ死にたくない!!」

「だからって刃物を出すんじゃねぇ!!」

「るせぇ!!斬りゃあいいんだろ、斬りゃ!!!!」

「それ違うから!!ドッペルゲンガーは罵倒すれば退治できるから!!!!」

「そもそもドッペルゲンガーは周囲の人と会話しないから!さっきこの人しゃべってたでしょ!!!!」

「とりあえず落ち着けっ!」

「そっそうだ!落ち着くんだ!!」


ドッペルゲンガー(仮)も、必死でそう言った。


「お前は実の兄を殺す気かあぁぁぁ!!!!」


ドッペルゲンガー(仮)の言葉に、4人は動きを止めた。


「…………兄?」


胡蝶は相手の顔をまじまじと見た。
言われてみれば前髪の分け目は逆だし、ポニーテールでなく三つ編みだったりと所々違う。


「よぉ……、生まれて一週間たったときぶりだな。鳥吉兄ちゃんだ」


ドッペルゲンガー(仮)もとい胡蝶の兄ちゃんは、軽く片手をあげて言った。



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