夏の巻

□十三章 日坂 佐夜中山
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水晶に映るは、夢と現。
現では背丈を越えるほどの長い草の生えた草原で横たわる4人。
夢には美しい花畑で横たわる少年。
フッと、水晶を見つめる者は笑った。










「んっ……」


日の光を感じて、胡蝶は目覚めた。
しばらくボーッとした頭のまま身を起して、自分のいる場所を見て驚いた。
自分はたった1人で花畑の中で寝ていたのだ。


「なっ!!」


立ち上がって何処までも続く花畑に目を見開いた。
あまりにも美しすぎる。
しかしそんなことを気にしている暇は無い。
何故自分はここにいるのか。
他の3人は何処へ行ったのか。
辺りを見渡してどうするべきか考え、そして誰かがいることに気が付いた。
その人は花畑の中に立っている。
その者が誰か気が付いて、胡蝶は動けなくなった。


「お春……」


何故かそこにお春がいたのだ。


「胡蝶!!」


こちらに気が付いたお春が駆け寄ってきて、胡蝶に抱き付いた。


(えええぇぇぇぇ!!!!)


戸惑った。
が、胡蝶も男だ。
思わず、抱きしめてしまった。


「これは……いったい……」


ドギマギしながらも、抱きしめる腕の力は緩めなかった。










「え……」


いつの間にか花畑にいて、慶徳は困っていた。
記憶が曖昧で、上手に思い出せない。
そうしていると、目の前に懐かしい人達が現れた。


「う……嘘だ……」


彼らは、すでにいないはずの人間だ。
慶徳自身が殺した。
しかし、懐かしさと寂しさは、冷静な判断を狂わせた。


「父さん、母さん、姉ちゃんっっ!!!」


二度と会えないと思っていた家族のもとへ、慶徳は走り出した。










「あっれー??」


花畑の中、貴徳は首を傾げた。
自分は夢を見ているのだろうか。
しかし、これはまるで現実のようだ。
地の感覚も花の感触も、しっかりとある。


「とりえず……どうしよう」


辺りを見渡すと、何処までも花畑。
そして、その中に2人の人影を見た。


「……えっ」


知らず知らずのうちに、涙が零れた。
貴徳の方に、手をのばしてくれるその人は。


「父ちゃん、母ちゃんっ!!」


その手に縋る様に、貴徳は両親に抱きついた。



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