夏の巻

□十六章 見附 天竜川
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「ここは何処だ……」


森の中を歩きながら、慶徳はそう呟いた。
空はもう完全に夕方でそろそろ今夜の宿を決めたいのだが、宿屋どころか庵すら無い。


「完全に迷ったね〜」


貴徳笑いながら言った。


「それを言うな……」


信じたくない。
信じたくないが、4人は道を間違えているらしい。


「とりあえず、何処か休めるところがあればいいんだけどな」


胡蝶はそう言って、森の中を見渡した。
しかし、やはり木や草しか見えない。
夜になって獣に襲われたら大変なのに。
このままでは休めない。

と、ガサッと草が音をたてた。


「!?」


4人はとっさに武器を構えた。
猪だったら鍋にしてやる。

が、草の間から出てきたのは、猪ではなかった。


「……キャッ!」


それは人間の少女だった。
少女は4人の武器を見て、悲鳴を上げて持っていた籠を落とした。


「え?わっ!すっすいません!!」


慌てて武器をしまうと、少女はこちらを伺うような目をしていた。


「え〜っと……」


胡蝶はどうしたものかと、慶徳を見た。


「すいません、ここから東海道へ出るにはどうしたらいいでしょうか?」


慶徳が代表して少女にそう問いかけた。


「東海道?旅のお方ですか?」

「はい。京を目指しているのですが、道に迷ってしまって……」

「でしたらこの道を進んだ先に、道標があります。でも、今からですと……」


その時だった。
ガサガサっと少女の背後の草が鳴った。


「!?」


そこから出てきたのは、大きな猪だった。


「キャアァァァァ!!!!」


少女はまたしても悲鳴をあげ、その場に尻餅をついた。


「貴徳!!」

「分かってるっての!!」


間一髪。
貴徳の手裏剣が、猪の片目を捕らえた。
叫び声を上げる猪に、彼岸が飛び掛った。


「ちょっ、彼岸!!」


慶徳の静止の声も虚しく、彼岸は『牡丹鍋ー!!!!』と叫びながら猪に弾き飛ばされた。



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